小さな魚たちがクラゲの傘の内側を隠れるように泳いでいる。
こちらは水中カメラマンのスチュアート・ホイットフィールド氏がタイ近海で撮影した映像だ。

鮮やかな黄色い尾が目を引く小魚たちは「クロボシヒラアジ(Shrimp scad)」と呼ばれている。
彼らはクラゲの傘をシェルターがわりにすることで、周囲にいる口先の尖った「ヘラヤガラ(trumpetfish)」から身を守っているのだ。動画を見ても虎視眈々と小魚を狙っているのが見て取れる。

宇宙船に乗り込んでる感もあってかなり楽しげだが、クラゲの傘に隠れるのはかなり危険な行為。
このクラゲは「根口クラゲ類(Rhizostomae)」の一種で、触手がない代わりに数本の口腕(oral arm)を持っている。大きな口はないのだが、足に小さな口が無数に開かれているのだ。
小さな口は側を通るプランクトンを吸引して丸呑みするのに使われている。

この足は人間にとっては無害なので、クラゲにも比較的近づきやすいらしい。
しかし小魚くらいだと足に触れればかなりの痛みを伴うので、このクラゲに近づく魚もほとんどいない。
クロボシヒラアジも例外ではなく、足に当たれば大ダメージを受ける。しかし出て行けば、ヘラヤガラが口を開けて待っている。
行くも地獄、戻るも地獄だ…

そのため足に当たらないよう懸命にかわして泳がなければならない。
ヘラヤガラに隙を突かれることもあるようだが、クラゲの外で生きるよりかは生存確率が格段にアップするらしい。

この関係は長期間に渡って続けられ、クロボシヒラアジは傘の中でクラゲの食べ残しをちゃっかり頂いているという。
ただ食べ過ぎで体が大きくなってくるとクラゲから出て行かなければならない。…世知辛い世の中だ。
今のところクラゲにとっての利益は確認されておらず、互いの関係が寄生的なものか共生的なものかは分かっていない。ウィンウィンな関係であることを願いたいところ。