chemistry

池にぎっしりと9600万個の黒ボールが浮かぶ科学的理由とは

2019.05.19 15:00:46 Sunday

ロサンゼルス衝撃的なため池が存在している。

なんとそこには「9600万個もの黒いボール」が浮かんでおり、水面はほとんど見えない。

池にボールを注ぐ映像もまた衝撃的。

ちなみにこのボール池の上で船を動かそうとすると、「ピーナツバターの上を走っているかのよう」とのこと。そりゃそうだ。

さて、ここからが本題だ。

なぜこのため池は、膨大な数の黒いボールに覆われているのだろうか?

その答えは、ため池に潜む「ブロマイド」と呼ばれる化合物にある。

ブロマイドはため池に注入された海水から流入する。ただブロマイド自体は無害であり、取り除くことも非常に難しい。

しかし水がオゾンによって消毒されると、ブロマイドは「ブロメート(臭素酸塩)」へと姿を変える。そしてこの臭素酸塩は発がん性物質とされているものだ。

そのため政府は、2000年ごろに臭素酸塩の規制に乗り出した。これによって消毒のプロセスにオゾンを用いる施設は、生成される臭素酸塩の量に注意しなければならなくなったのだ。

そしてもちろん、臭素酸塩の量が測定されるのはろ過システムがある施設においてだ。

1リットルあたり10マイクログラム以下の量に規制された臭素酸塩だが、あるとき飲料メーカーから苦情が入る。

メーカーいわく、独自の検査で基準値を超えた臭素酸塩が検出されたというのだ。

ろ過施設はこの苦情に対して初め当惑したが、すぐにそのカラクリが判明する。

施設と消費者の間にある「ため池」で、臭素酸塩が急増していることが明らかとなったのだ。

ため池では次のようなことが起こっていた。

なんと、ため池に存在する塩素とともにブロマイドが日光にさらされると、オゾンの場合を上回る量の臭素酸塩が生成されていたのだ。

規制の段階で、このプロセスはまったく見逃されていたこととなる。しかしこの現象を防ぐ手立ては1つしかなく、それは「日光を遮る」ことだった。

そこで、当局は様々な方法を考案した。まずは遮光シートをため池いっぱいに広げるといったものだ。しかしこれは時間的なコストから却下になった。

次にトランポリンのようなものも考案されたが、鳥の休憩所になったら水質に問題が出てくるので却下に。

さらにはパイプも検討されたが、これもコストの面から却下となった。

こうして紆余曲折を経て、日光を遮るために「Shade balls」と呼ばれる大量の黒いボールが採用されたのだ。

実はこのボールは、当時すでに存在していたものであり「Bird balls」と呼ばれていた。それらは空港付近の池などに利用され、離着陸時のバードストライクを防止するためなどに用いられていたものだ。

こんな原始的な方法で、本当に臭素酸塩を減少させられるのだろうか?

しかし安心してほしい。このボールは厳正なる「子ども用プールでのテスト」を経て実用化されたものだ。

実はShade ballsには、臭素酸塩を減らすだけでない別のメリットもある。

Shade ballsがあることで、これまで藻の成長をコントロールするために池に投入されていた塩素の量を減らすことができたのだ。太陽光をカットしたことで、藻の成長が抑制されたということになる。

さらに、Shade ballsには水の蒸発を防ぐ効果もある。

ボールがなければ水面付近の湿気は風に吹き飛ばされてしまい、乾いた空気がさらに湿度を奪っていってしまうのだ。

もはや観光資源にさえなりそうなこのため池だが、今のところツアーの類は存在していないようだ。

お姉さんは「ツアーを組んだのはこれ(取材)が初めてよ」と笑っている。

ちなみにお姉さんにはこれがタピオカにみえるそうだ。確かに似ている…

信じられないほどにダイナミックな光景だが、この大量のボールにはまっとうな存在理由があったようだ。

ツアーが組まれた際にはぜひ訪れてみたい。単なる黒いボールであることに違いはないが、圧倒されること間違いなしだろう。

【5.20 修正】
記事中に一部誤りがあったため、訂正し再送いたします。
reference: Veritasium / written by なかしー

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