ブラックホールは人工的に作れるのか?
理屈としてのホーキング放射はわかるが、実験物理学者たちはなんとしてもこれを実験で再現し観測したいと考える。
しかし、重力については未だに物理学者たちはその真の正体を明らかに出来てはない。重力の塊であるブラックホールを作り出すことは現在の技術では不可能だ。
そこで、今回報告されたイスラエルのチームは、擬似的なブラックホールを作り出し観測を行った。
その方法が音だというのだ。
よく意味がわからないと思うので、順々に説明していこう。
光(電磁波)は光速度(秒速30万km)で空間を伝わっていく波なのだが、音も音速(秒速340m)で空間を伝わる波である。そして光が光子という素粒子として捉えることができるのと同様に、音も量子論においてはフォノン(音子)という粒子として考えることができる。
え? 音って空気の振動じゃないの? と思うかもしれないが、では原子1つを振動させて出る音とはなんだろう? 禅問答みたいだが、量子論はそういう考え方から原子が振動したときに音子という素粒子が発生するという捉え方をするのだ。
そうした方法によって、光は音へと変換して考えることができる。そうなると光を捕らえて離さない事象の地平面も、何かに置き換えることが可能だろう。
当然フォノンは音速で移動する粒子になる。音は原子間を伝わっていく現象だから、原子が揃って音速を超えて流れ出した場合、フォノンはその流れに逆らって脱出することは不可能になる。これが音を使った擬似的な事象の地平面というわけだ。
揃って原子を音速以上で流すためには、ボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)という現象を使う。これは超伝導の原理とも考えられている現象だが、ガスを絶対零度に近い温度まで下げるとボーズ粒子という同じ状態の仲間をたくさん集めて行動する粒子として振る舞い始め、原子がまるでレーザー光線のように揃った動きをするようになる。
この原子の揃った流れを重力に見立てて、流れが音速になるポイントを故意に作り出すと、疑似的なブラックホールと事象の地平面が再現できるのだ。