
Point
■多指の人が持つ余分な指にも、専用の腱・筋肉・神経があり、それに対応した+αの脳領域が存在することが判明
■多指の人の脳は、増えた仕事量の制御に上手く適応して仕事を振り分けている
■生得的な多指と、人生の半ばで身につける義肢や義肢には違いがあるが、これらの開発への応用も期待できる
「病気」というには、あまりにも機能的だ。
生まれながれにして6本指を持つ人を対象に行われた調査で、6本指であることによって生じる仕事量の増加に、脳がどう対処しているかが明らかになった。
形成状態の良好な多指の人の脳が、それぞれの指の運動を司る各脳領域に仕事を振り分けていることを示したのだ。
調査を行ったのは、アルベルト・ルートヴィヒ大学フライブルク(ドイツ)、インペリアル・カレッジ・ロンドン(英国)、ローザンヌ大学(スイス)、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(スイス)の研究チーム。論文は、雑誌「Nature Communications」に掲載されている。
https://www.nature.com/articles/s41467-019-10306-w
6本目の指に対応したプラスアルファの脳領域
多指で生まれる人の比率は、世界的に500人に1人だと言われている。多指は通常、先天的欠損と見なされ、余分な指は生後間もなく切除されることがほとんどだ。このため、多指についての研究はこれまで、その背景にある遺伝子変異にフォーカスしたものがほとんどだった。
指の一本一本は、それぞれの腱によって手のひらに連結され、それぞれの筋肉によって動かされ、それぞれの神経に接続されている。そしてこれらの神経は各々、運動野にある特定の脳領域によって制御されている。研究チームは、この構造に6本目の指がどうやって組み込まれているのかを探ろうと考えた。
研究チームは、52歳の女性と、その息子である17歳の少年を対象とした調査を行った。彼らはどちらも、生まれつき両手の親指と人差し指の間にもう1本の指を持っていた。
親子は、「片手で靴紐を結ぶ」、「電話機のボタンを押す」、「特製のビデオゲームをプレイする」といった操作を伴うタスクに取り組んだ。研究チームは、その様子を観察し、多指でない人々がこれらを行う様子と比較した。また、fMRIを使って作業中の脳活動を観察した。下記が、タスク中の様子を撮影した動画だ。
その結果、多指でない人の指と同様に、多指にも特定の腱・筋肉・神経が存在するだけでなく、それに対応したプラスアルファの脳領域が運動野に存在することが確認された。6本目の指を制御することは、脳の仕事量の増加を意味するが、2人の被験者が明らかに認知上の不利に苦しんでいる様子は見られなかった。
多指の人々の脳は、増えた仕事量の制御に上手く適応し、6本目の指専用の脳領域さえ備えているというわけだ。脳の柔軟性には心底驚かされる。