Point
■頭を開く「穿頭」手術は、インカ帝国の時代に驚くべき成功率を誇っていたことが分かった
■その数字は、当時から約400年後のアメリカ南北戦争における同様の手術の成功率を大きく上回るものであった
■頭蓋骨を削った後の治癒の程度から、その患者が穿頭後にどの程度生きたかが推測された
頭蓋骨の手術を麻酔や抗生物質なしでをおこなうなど、想像するだけで気絶しそうになるだろう。
しかし、頭蓋骨を削り、切除し、こするといった作業を伴う「穿頭(せんとう)」(トレパネーション)は、古代ギリシャや先コロンブス期のペルーにおいて数千年にわたって実際におこなわれてきた。
残念ながら、穿頭を受けたすべての患者が生き延びたわけではない。しかしインカ帝国の100を超える被験者を含む人々は、穿頭に生きたまま成功していたことが分かっている。
そして新たな研究が、そうした外科手術の精度が驚くほどに高かったことを示した。研究によれば、インカ時代の手術成功率は80%にものぼっていたと考えられており、その約400年後に起こったアメリカ南北戦争における、50%をはるかに凌駕する数字であったとのことだ。
Trepanation Procedures/Outcomes: Comparison of Prehistoric Peru with Other Ancient, Medieval, and American Civil War Cranial Surgery
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1878875018306259
年代を追うごとに進歩した穿頭技術
研究者によれば、穿頭は脳へのダメージを取り除くために開始されたものだと考えられているが、すべての頭蓋骨に怪我の兆候があったわけではない。
そのため、穿頭が脳の外傷治療でない場合にも用いられていたことが考えられる。それはたとえば慢性的な頭痛や、精神的な疾患などだ。
穿頭の成功率については、頭蓋骨の治癒の度合いによって推測された。つまり、穴を開けた頭蓋骨の周辺に治癒の痕跡がみられなければ、その個体は術後間もなく死亡したと考えられ、逆に骨が滑らかに治癒していれば、その個体は穿頭の後数ヶ月、あるいは数年間生きたと考えられるということだ。
また、頭蓋骨の化石には技術の進歩の足跡が表れていた。年代を追うごとに穴や削った箇所の面積は小さくなっており、脳を保護する硬膜が破裂することや、感染症のリスクを低下させる「グルービング」がより丁寧におこなわれるようになっていたのだ。