Point
■オーストリアのとある女性が出産後、外陰部に腫れを感じ、産婦人科で診察を受けた
■外陰部にできたその腫れは「乳房」に当たるもので、実際に母乳を出すこともできた
■これは副乳が外陰部にできたという珍しい症例であり、医学的には決してありえない出来事ではない
オーストリアに住む29歳のある女性が、二人目の赤ちゃんを生んだ数日後に、外陰部の腫れと疼痛を訴えた。
ケプラー大学病院の産婦人科が診察を行ったところ、この腫れは大陰唇から小陰唇そして肛門に近い会陰部まで広がっており、しかもそこからは乳白色の液体が排出されていたという。
この液体はいわゆる母乳と呼べるものだ。超音波検査の結果、彼女は外陰部に異所性(通常ではない場所)乳腺組織を持っていることが確認された。
つまり奇妙なことに、彼女はアソコに乳房ができ、母乳まで出てしまったというのだ。アソコから授乳できるとは驚きの状況だが、できた場所はレアなものの、これは副乳といって医学的には誰にでも起こりうるものだという。
この症例はオーストリアのケプラー大学病院より発表され、Obstetrics & Gynecologyに掲載されている。
https://journals.lww.com/greenjournal/Abstract/publishahead/Postpartum_Galactostasis_of_the_Vulva_in_a_Case_of.97688.aspx
おっぱいがいっぱい でもあまり嬉しくない副乳とは?
ネズミ、イヌ、ネコ、ブタなど多産の哺乳類はみな複数の対になった乳首を持っている。
これは子どもたちへいっぺんに授乳できるようにたくさんあるわけだが、こうした仕組みは別に多産な彼らだけでなく、哺乳類ならみな持っている機構なのだ。
人間は通常2つの乳首を持っているが、実は使わないので退化してしまっただけで、機能としては残っている。
誕生したばかりの胚という状態の生物は、子宮の中で進化の過程を早回しのような状態で辿りながら成長していく。その過程ではかつて存在していた生物の機能も、全て作り出されている。
もっとも初期の状態の胚では魚類のエラに類似するものまで作られているといわれ、尻尾なども存在している。
母乳を出すための乳腺は脇の下から鼠径部までつながって存在している。人間の胎児はだいたい誕生の2、3ヶ月程度でこの部分が発達し、実際複数の乳房が発生したりしている。だが通常は成長過程で2つを残して他はすべて退化してなくなってしまうのだ。
しかしまれに、乳腺のライン上に進化の名残とも言える副乳が残る場合がある。
最もよく副乳が確認される場所は脇の下だ。ここにコブのようなしこりができたり、ほくろのような乳首が出ていたりするのは、誰にでも起こり得る状況である。
そして副乳は女性だけに限らず、男性にも現れる場合がある。副乳ができてしまう人は、男性で1.5%、女性では5%程度の割合で存在する。
人によって現れ方の程度は違うので、鏡でよくよく見てみたら脇の下に乳首みたいなものがあった、という人もいるかも知れない。
もちろん脇の下に限らず、乳腺の通る場所には、副乳ができる可能性がある。
女性の場合、副乳があると生理前に張るような症状が出ることがあるというが、大概は顕著に存在が現れるのは出産後の授乳時期だ。
このときは乳腺全体が発達し、母乳が作り出されるため今まで隠れていた副乳が腫れ、分泌物を排出する場合がある。
今回報告された女性も、出産を契機に副乳の存在が確認された。
ただ、外陰部に副乳が見られるというのは、医学の世界でもかなり特殊な症例といえるらしい。過去にも同様の報告が無いわけではないが、非常に稀なケースであるのは変わらない。