Point
■ネガティブ感情の発露は「現実自己-理想自己」と「現実自己-義務的自己」とのギャップによって異なる
■前者は不安症と憂鬱症を生じさせ、後者は不安感情のみに結び付く
■特に前者は過度な自己批判が原因となっており、心理的な苦痛や精神の脆弱性を生む
必要以上の自己批判は、日本では特に多く見受けられる事例だ。
目標に邁進する途中で失敗に終わると、心理的な不安や憂鬱、無気力、消極性などが生じてしまう。しかし向かうべき自分像が「理想」か「義務」かで、精神への影響は違うようだ。
オーストラリア・エディスコーワン大学の研究によると、「現実ー理想」のギャップでは不安と憂鬱感情が生じ、「現実ー義務」では不安感情のみと結び付くことが判明した。
研究の詳細は「Journal Personality and Individual Differences」上に掲載されている。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0191886919303435
理想の自己と義務的な自己によってネガティブ感情が異なる
研究チームは、上記2つの関係性のギャップによって生じるそれぞれのネガティブ感情について調査した。
「理想の自己」とは自分自身の希望や願望のようになりたい自分であり、「義務的な自己」とは職務や責任のように自分がそうでなければいけないと思う自分のことを指す。
138名の学生(男子48名、女子90名)を対象にした調査では、希望する「理想の自己」および「義務的な自己」に関して簡単に記述してもらい、その後「理想」と「義務」それぞれに対して、現在の自分からどれほどかけ離れているか評価付けしてもらった。
最後に学生にはネガティブ思考や不安症、憂鬱症について自己報告してもらっている。
その結果、「現実ー理想」のギャップは不安症と憂鬱症の両方に結びついていたが、「現実ー義務」は不安症状だけに関係していることが判明した。
また前者の関係が不安症や憂鬱症に結び付くのは過度な自己批判によるものであったが、後者に関してはネガティブな自己批判が無くとも常に不安症を保持していた。
研究主任のジョアン・ディキンソン氏によると「義務や責任を果たすことは、希望を追求するよりも差し迫ったことであるため、常に不安感情がつきまとっているのかもしれない」と指摘する。
問題は、ネガティブな自己評価や自己批判に集中しすぎてしまうということだ。自らの失敗を攻めすぎることで心理的なストレスの増加や、精神の脆弱性をもたらしてしまう。
それを防ぐためにも、正しく自己誘導することが重要となる。過度な自己批判を抑制し、目標を高く設定するのをやめて、適切な目的意識を持つこと。これが心理的な健康を保つためにも大切だ。
特にネガティブな自己評価のスパイラルに巻き込まれた場合はなおさらだ。自分を一番労れるのは、自分以外の何者でもないのだ。