Point
■チャバネゴキブリが、さまざまな種類の殺虫剤に対する耐性を同時かつ急速に進化させていることが判明
■異なる殺虫成分に対する交差耐性を発達させることで、自分が直接出会ったことのない毒の影響を受けない子孫を生む
■衛生管理の向上、罠、ゴキブリ吸引器といった複数のアプローチを組み合わせることが重要
あらかじめ断っておくが、この記事には元気なチャバネゴキブリが出演しているので苦手な方はご用心ください。
人間とゴキブリは、言うまでもなく長年の宿敵同士だ。この憎き厄介者を排除するため、人間は現代科学の力を用いて次々と新たな殺虫剤を開発してきた。
ところが、残念なことに軍配はどうやらゴキブリの方に上がりつつあるらしい。
小型で動きが速く、多くの子どもを生み、人の生活圏でのみ生きるチャバネゴキブリが、さまざまな種類の殺虫剤に対する耐性を同時かつ急速に進化させつつあり、もはや化学物質だけを用いて殺すことが不可能になる日が近い可能性が明らかになった。
研究を行ったのは米パデュー大学で昆虫学を研究するマイケル・シャルフ氏ら。論文は雑誌「Scientific Report」に掲載されている。
https://www.nature.com/articles/s41598-019-44296-y?_ga=2.74381522.1570996226.1561721325-329974176.1561721325
通常殺虫剤はさまざまな分類の有毒化学物質から作られている。万一ゴキブリがある分類の化学物質への耐性を持っていたとしても、他の分類の化学物質には弱いことが多い。

ところがチャバネゴキブリはそんなヤワな奴ではなかった。
異なる殺虫成分に対する交差耐性を発達させることで、自分が直接出会ったことのない毒の影響を受けない子孫を生むのだ。しかも、研究チームの調べによると、この現象はわずか一世代の間に起きることもあるのだとか…。G…恐ろしい子!
殺虫剤を複数用いるのは完全な逆効果
研究チームは、イリノイ州ダンビルとインディアナ州インディアナポリスのそれぞれにある集合住宅に生息するゴキブリに、6ヶ月にわたって3つのパターンの殺虫剤の与え方を試し、その効果を測った。
グループ1のゴキブリには単一の殺虫剤のみが与えられた。グループ2にはクラスの異なる2つの殺虫剤が与えられた。グループ3にはクラスの異なる3つの殺虫剤が月ごとに切り替えながら与えられ、それを2回繰り返した。

研究チームは各グループのゴキブリの殺虫剤への耐性を数世代にわたり追跡するため、ゴキブリを生きたまま捕まえてラボへ持ち帰り、ビールを染み込ませたパンを入れたガラス瓶に入れた。
その結果、どのグループにおいてもゴキブリの個体数は変わらないか、増加したかのどちらかだった。増えることはあっても減ることは無かったということだ。
また使用する殺虫剤をころころと変えることは、ゴキブリの数を減らす上で「もっとも効果が低い」ことが判明した。子孫は、親が一度も出会ったことのない殺虫成分への耐性を持つばかりか、それとは別のクラスの殺虫成分への耐性を持つ兆候さえ示したのである。
意外にも唯一効果が見られたのは、単一の殺虫剤のみを用いたケースだった。個体数そのものの減少には至らなかったものの、殺虫剤への耐性をほとんど持たない子孫を高確率で生んだのだ。