Point
■Y染色体DNA個人識別法と系譜データから、約30年前に発掘された男性の遺骨の正体が特定された
■頭蓋骨がドクロのように、2本の大腿骨が交差させた形に配置されていることから、当時の吸血鬼信仰と関連付けられてきた
■結核で亡くなった人々が墓を抜け出して家族に病気をうつすと信じていた当時の人々は、遺体を掘り起こして心臓を焼く「治療的発掘」を行っていた
1800年代初頭のある日、米国ニューイングランドのある墓地で1人の男性の遺体が掘り起こされました。臓器はすでに腐敗して無くなっていましたが、頭蓋骨はドクロの形のように、2本の大腿骨は交差させた形に並び替えられ、再び棺の中へ戻されました。棺の蓋には、真鍮の鋲で「JB 55」と記されていました。
それからおよそ200年の時を経て、この男性がジョン・バーバーという名前の農夫だったことが判明しました。DNA解析を行ったのはアメリカ陸軍検視部のDNA鑑定研究所です。
Y染色体DNA個人識別法と系譜データを用いて個人の特定に成功
男性の遺骨が入った棺がコネチカット州グリスウォルドの採石場で発見されたのは、1990年11月のこと。砂利加工施設がこの地域で砕石を行っていた際、放棄された墓地に行き当たったことが事の発端でした。掘り進めるにつれて次々と人の骸骨や壊れた棺の一部が出土し、最終的には男性5体、女性8体、子ども14体を含む27体の遺骨が発掘されました。
とりわけ目を引いたのは、No. 4の棺でした。他の遺骨が解剖学的な配置のまま保たれていたのに対し、この遺骨だけは大腿骨が引き抜かれ、胸の前で交差されていたのです。研究者たちは、これをニューイングランド地方の吸血鬼信仰と関連付けました。
まもなく、遺骨は陸軍のメディカルセンターにある国立健康医学博物館へ、大腿骨から採取したサンプルはDNA鑑定研究所へ送られました。ですが、約30年前の当時の技術では得られた結果は乏しく、個人を特定することは不可能でした。
ところが今回、Y染色体DNA個人識別法とインターネットで利用可能な系譜データを用いて、この男性の姓がバーバーと一致する可能性が高いことが判明しました。
古い墓地や新聞記録をたどり、グリスウォルドにバーバーという姓の家族が住んでいたかどうかを調べたところ、1826年にジョン・バーバーと言う名前の男性を父親に持つネイサン・バーバーという12歳の少年の死を報じた記事が見つかりました。そこで「JB 55」の棺の側を調べてみると、同じく真鍮の鋲で「NB 13」と記された棺が発見されたのです。
ではなぜ、彼はこのような奇妙な弔われ方をしたのでしょうか。