Point
■2010年、NASAのフェルミガンマ線宇宙望遠鏡は、天の川中心を南北で挟み込む巨大なガンマ線源を発見した
■銀河中心の超大質量ブラックホールからの噴射が原因と考えられているが、詳しい起源は未だ明らかになっていない
■最近、フェルミバブルの方向から高エネルギーのニュートリノが検出され、ガンマ線と共にニュートリノの発生源になっている可能性が出てきた
NASAのフェルミガンマ線宇宙望遠鏡は、その名の通り、目には見えないガンマ線で宇宙を見る衛星軌道上の望遠鏡です。そのため、フェルミ衛星とも呼ばれます。
フェルミ衛星の主な任務は、宇宙線の発生源を特定することです。宇宙線は、宇宙のどこかからやって来る高エネルギーの放射線ですが、星間ガスや星間磁場などの影響によって直進しません。そのため、どこでどうやって発生しているかが分からないのです。
しかし、宇宙線と星間ガスの影響で発生するガンマ線は、こうした磁場の影響を受けず直進します。そのため、宇宙線の起源や伝播の様子を研究するのに有効と考えられているのです。
そんなフェルミ衛星が、2010年に銀河中心を南北に挟む形で存在する高エネルギーの巨大なガスの球体を発見しました。これはそれぞれが直径2万5千光年、2つ合わせて5万光年というサイズで、天の川銀河本体とほぼ同じ大きさです。
このガスは高温ですが密度は薄く、可視光でその領域になにかの存在を見ることはできません。
バブルの起源については、位置から考えて銀河中心に存在する超大質量ブラックホール「いて座A*」による宇宙ジェットの影響が考えられます。
ブラックホールは、まるで火山噴火のように上下方向へ猛烈なジェット噴射を起こすことが知られています。ジェット噴射の原因は明らかとなっていませんが、これがフェルミバブルを作り出した可能性は高いでしょう。
または、銀河中心部で一斉に複数の恒星が超新星爆発を起こし、その煙が銀河の境界を超えて放出されたという可能性もあります。
あるいは、まったく別の要因で生まれた可能性も否定できません。何にせよ、発見から10年が経とうとしていますが、フェルミバブルの起源については、未だに謎のままとなっています。
高エネルギーニュートリノの検出
このフェルミバブルには、もう一つ最近明らかになった事実があります。
それが高エネルギーニュートリノの放出です。
日本ではスーパーカミオカンデが有名ですが、現在南極にも1立方キロメートルの南極の氷を使ってニュートリノを検出するアイスキューブ・ニュートリノ観測所があります。この検出器の精度では、ニュートリノの正確な原点位置を特定することが出来ませんが、ある程度飛来方向を絞ることは可能です。
それによると、検出された高エネルギーのニュートリノ10個ほどが、2つのフェルミバブルの方向から飛来していたというのです。
これがたまたま偶然そうなったか、もっとずっと遠方の宇宙から飛来した可能性も否定はできません。しかし状況から見て、フェルミバブルが高エネルギーニュートリノの発生源である可能性が高いと考えられるのです。
ガンマ線とニュートリノを同時に生み出すとなると、そこにはいくつかの仮説が浮かんで来ます。
1つは、フェルミバブル内で陽子がぶつかり合ってパイ中間子を生成しているというものです。パイ中間子は生まれてすぐに崩壊してガンマ線になる粒子のことです。
または、バブル内の高エネルギー電子が、宇宙背景放射(ビッグバンの残光)と相互作用して光子のエネルギーをガンマ線領域まで押し上げている可能性もあります。
3つ目は、バブル外縁が磁場を放って局所的に粒子を加速させ、宇宙線を生み出しているという可能性もあります。
しかしいずれの説についても、データと一致する証拠は掴めていません。残念ながら、結局ガンマ線とニュートリノを同時に生み出している原因や、フェルミバブルが生まれた原因はわからないままなのです。
科学の進歩とは、データの収集とそれによる仮説の淘汰で生み出されるものです。フェルミバブルや宇宙線の起源は、まだ当分は謎のままになりそうです。
宇宙にはまだまだ、目には見えない秘密にあふれているようですね。