Point
■土星の衛星エンケラドゥスが、地表の間欠泉から地中の水を吐き出すことで、自身と近隣の他の衛星に雪を降らせていることが判明
■エンケラドゥス、ミマス、テティスは非常に反射率が高く、単純に氷の存在だけでは説明がつかないため、氷に埋もれた表面地形にも原因があると考えられる
■これら衛星表面に関する測定データは、土星のリング形成過程や、詳細の衛星着陸ミッションに有益な資料になる
天体観測には、アルベドと呼ばれる天体の反射率を示す用語があります。
まるでうさぎが餅をついているように見える月の模様も、月表面のアルベドの差によって生まれているものです。
こうした惑星や衛星の反射率は、その星の組成や地形などを理解するための重要な手がかりとなります。
土星の衛星「エンケラドゥス」は、このアルベドが非常に高く太陽系でもっとも白い天体です。
「エンケラドゥス」の周辺には他に「ミマス」「テティス」という2つの衛星が存在していますが、どちらも同様にアルベドが高いことで知られています。
木星探査機カッシーニは、この「エンケラドゥス」「ミマス」「テティス」の3つについて、レーダーによるアルベド測定を行い、表面の特徴を明らかにする調査を行いました。
その結果、これらの衛星は全て、過去の報告よりずっと明るいことがわかり、さらにその原因がエンケラドゥスの間欠泉から噴き上がった氷粒子にあることが明らかとなったのです。
エンケラドゥスは、宇宙空間を超えて近隣の衛星にまで雪を降らせていたのです。
この研究はパリ=サクレ大学のAlice Le Gall博士率いる研究チームにより、今年ジュネーブで開催されたEPSC-DPS合同会議2019で報告されました。
https://meetingorganizer.copernicus.org/EPSC-DPS2019/EPSC-DPS2019-454-2.pdf
間欠泉から吹き出したエンケラドゥスの内部海が雪に変化
カッシーニの強力なレーダーはもともと、土星最大の衛星タイタンの分厚く不透明な大気を透過して、地表の様子を調査するために搭載されたものでした。
しかし、このレーダーはエンケラドゥス、ミマス、テティスにも適用可能であることが指摘され、これらの衛星のアルベド測定によって、地表の特徴を明らかにする調査が実行されました。
Le Gall博士を含む研究チームは、2004〜2017年の間に土星探査機カッシーニが撮影した豊富な観測データベースの中から、土星の内大衛星群のレーダー観測結果60件を分析。これらの観測結果が過去の報告では、明るさを低く評価していたことを突き止めました。
土星の内大衛星群は保護の役目を担う大気に覆われていないため、あちこちから飛来する粒子を直接浴びて、表面の組成や質感が変化しています。カッシーニによるレーダー観測は、衛星の氷の純度を明らかにしました。
3つの衛星はレーダーを強く反射しており、極端に明るい状態です。これは、エンケラドゥスと近傍の衛星の表面が高純度の水による氷に覆われているためと考えられます。これはエンケラドゥスの噴出する間欠泉に由来するものです。
最新の報告では、この噴出物には有機物(アミノ酸成分)も混ざっていると言われています。エンケラドゥスの氷に覆われた表面の下には、海が存在していると言われており、間欠泉の噴出は、この有機物と海水が混じり合って高く噴き上がったものなのです。
この噴出物の一部は、弱いエンケラドゥスの重力圏を超えて宇宙空間へと飛び出します。重い成分は重力圏を抜けられずに再びエンケラドゥスへ戻りますが、一部は土星リングのE環へ構成材料を与えることになります。
そして、水蒸気は高純度の水を原料とした雪に変わり、エンケラドゥスの表面に再び降るだけでなく、近傍の衛星ミマスとテティスの表面にも降り注ぐのです。
Le Gall博士によると、観測されたような超高輝度のレーダー信号反射を起こすためには、少なくとも数十センチメートルの積雪が必要になると言います。しかし、氷の組成だけでは、記録されたレベルの明るさ(アルベド)に説明がつきません。
カッシーニのレーダー信号は透明な氷の中を貫通する威力があります。そのため、レーダー信号は衛星を覆う氷の下にある構造まで至って反射している可能性が高いと考えられます。
そうなるとエンケラドゥスを含む明るく土星の内大衛星群を覆う氷の下には、再帰反射を起こす物質や構造が存在する可能性があるのです。
再帰反射とは入ってきた光をそのまま跳ね返すような効果を言います。車のヘッドライトを受けて光る標識や、安全ベストの反射材のようなものはこの効果を利用しています。