Point
■初期人類は、鹿の骨内部にある髄を洞窟内で保存していた
■骨を乾燥した鹿の皮で包むことで腐食スピードが落ち、鮮度が9週間にわたり持続する
人類史に「缶詰フード」が登場したのは1804年。遠征時の食料問題に悩まされたナポレオンが懸賞をかけて解決法を公募したのがきっかけです。
そして1810年になると、より軽量で破損しにくい缶詰へと進化を遂げます。それ以来すっかり人気食となった缶詰ですが、実はその起源は予想を遥かに上回る「大昔」にあったようです。
テルアビブ大学(イスラエル)の研究により、約40万年前の旧石器時代で、動物の骨を「缶詰食」として保存していたことが分かりました。初期人類は食糧難に陥った際に、骨を割って中に保存されている栄養満点の髄を食べていたようです。
研究の詳細は、10月9日付けで「Journal Science Advances」に掲載されました。
https://advances.sciencemag.org/content/5/10/eaav9822
鮮度は9週間にわたって持続する
保存食の痕跡が見つかったのは、イスラエル・テルアビブの東12km地点にある旧石器時代の遺跡「ケセブ洞窟」。この洞窟を拠点としたグループが、主に保存食を利用していたようです。
狩られた動物は、一般的にその場ですぐに解体され、加工処理を受けます。そして狩猟班は、赤身肉や脂肪分、皮、脚、骨などの必要部位だけを拠点に持ち帰るのです。
洞窟内で出土した化石から、彼らが保存食に用いたのは鹿肉だと判明しています。
発見された鹿の蹄と脚をつなぐ骨(metapodial)に、石器か何かで強く叩かれた痕跡がくっきりと残されていました。これは肉を剥いだりするときではなく、骨を割って中の髄を取り出すときにできる傷痕です。
また、研究主任のバルカイ教授は、「骨を乾燥した鹿の皮で包むことで鮮度を保ちやすくしたのではないか」と予測しています。
研究チームは、この保存効果を証明するために鹿の骨を用い、同じような状況を再現して実験しました。その結果、骨内部の髄の腐食スピードは、乾燥した皮で骨を包むことで遅延され、最大9週間のあいだ鮮度が保たれることが証明されたのです。
同チームのブラスコ教授は「この結果は、初期人類がすでに食物の保存と消費延期の方法を知っていたことを物語っている」と話しました。また、こうした保存食は、当時のメジャーな食料源であった象が入手できないときに食されたようです。
保存食の発明は、人類の知能が革命的に進化したことの証明でもあります。「もしも」の緊急事態を想定する思考力が、人類と他の動物の間に果てしない知能の差を生んでいるのです。
自然災害が多発する日本において、保存食は初期人類と同様に欠かすことのできない存在となっています。