Point
■アルマ望遠鏡が周囲数光年と外縁の10数光年の範囲で、降着円盤が逆向きに回転しているブラックホールを発見した
■ジェット噴出を行うような大質量のブラックホールは、降着円盤が内側と外側が逆回転している場合があるという予測は理論上存在していたが、観測で確認されたのは初めて
■回転方向が一致しない不安定な降着円盤は、塵が中心へ落ちやすい状態となるため、初期宇宙で超大質量ブラックホールが形成されていた原因となる可能性がある
南米チリにある巨大電波望遠鏡「アルマ望遠鏡」が、逆回転するブラックホールを発見しました。
コリオリの力が働くわけでもない宇宙で、ブラックホールも台風みたいに決まった回転方向があるのか? と思うかもしれませんが、ここで言う逆回転とは、中心部と外縁部の回転方向が逆という意味です。
巨大なブラックホールの周囲では、降着円盤というガスと塵の集まりが回転しています。この円盤は、外円盤はドーナツ型の厚い雲となるのですが、この部分が内円盤とは逆に回転しているというのです。
回転方向が内側と外側で逆向きになると、円盤のガス流はかなり不安定な状態になります。この場合、単一の回転方向を持つ円盤よりも、物質はブラックホールへ落ちやすくなると考えられます。
それはブラックホールが急成長することを意味するのです。
この発見は、通常形成まで数10億年必要とされるような超大質量ブラックホールが、誕生後10億年程度の初期宇宙に存在していたという理論上の矛盾を解消させる鍵になるかもしれません。
この論文は、アメリカ国立電波天文台(NRAO)のViolette Impellizzeri氏を筆頭とした研究チームより発表され、天文学の学術雑誌「The Astrophysical Journal 」に10月14日付けで掲載されています。
http://dx.doi.org/10.3847/2041-8213/ab3c64
逆回転するブラックホール
今回観測されたのは、NGC1068(別名M77)と呼ばれる、地球から約4700光年ほど離れたくじら座の方角にある渦巻銀河の核となっているブラックホールです。
非常に活発に活動している超大質量ブラックホールで、巨大な降着円盤を形成しています。
以前のアルマの観測では、このブラックホールは信じられない速度で物質を吸い込み、ジェットを噴出していることが明らかになっています。
Impellizzeri氏の研究チームの最新の観測で、このブラックホールが周辺の2〜4光年の内円盤と、4〜22光年に及ぶ外円盤のトーラス(ドーナツ型の雲)では回転方向が逆向きになっているということを発見しました。
内円盤は銀河の回転に追従していたのに対して、外円盤は反対方向に回転していたのです。
逆回転という現象自体は、宇宙では珍しい現象ではありません。銀河中心から数千光年離れた外縁などでは、中心と逆回転する天体の動きを確認できる場合があります。
こうした銀河が持つ天体の逆回転は、銀河同士の衝突や相互作用から生じるものです。わずか10光年という狭い範囲で、逆回転が生じるというのは驚くべき発見です。
しかし、なぜこのブラックホールは逆回転しているのでしょう?
通常、ブラックホールに捕らわれたガスはその周りを一方向にしか回転しません。ディスクの一部が逆回転するという状況は不可能と考えられるため、何かが円盤の流れを妨げた可能性があります。
天文学者たちは、これを小さな銀河がブラックホールの回転軌道を通過したために、引き起こされたのではないかと考えています。