- ほぼ100年の間、未解決となっていた物理の謎を、スイスの大学生が解き明かす
- 「チューブ中に停滞する気泡」は、周囲にできる液体の薄膜のせいで、強い抵抗力が生じ、上昇を妨げていた
水の入った細いガラスチューブを垂直に立てると、中心部に気泡ができます。しかし、なぜかこの気泡は上昇することなく、同じ場所に留まり続けます。
理科の実験などで、一度は見かけたことがあるかもしれません。
普通、コップに水を注ぐと、泡は自然と表面に浮かび上がりますが、チューブの場合、同じはずの物理法則がまったく通用しないのです。
実はこれ、およそ100年もの間、物理学者たちの間で未解決のままとなっている超難問。しかし、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)に在学する一人の学生が、この謎を解き明かしてしまったのです。
研究の詳細は、12月2日付けで「APS Physics」に掲載されました。
https://journals.aps.org/prfluids/abstract/10.1103/PhysRevFluids.4.123601
実は「気泡」は止まっていなかった?
「数ミリメートル幅のチューブの中にできた気泡は、動くことなく、一ヶ所に静止しつづける。」
物理学者がこの現象を初めて確認したのは、ほぼ1世紀も前のことです。それ以来、誰の手によっても解決されていませんでした。
物理法則をもとに考えると、チューブの中の液体が動いていないかぎり、抵抗は一切生まれないので、気泡も詰まることなく、自然に上昇するはずです。
1960年代に、ブレザートンという物理学者の研究により、「チューブの内壁と気泡の間にできる液体の薄膜が詰まりの原因ではないか」と仮定されました。
実はこの推測は、正解にかなり近づいていたものの、その後の議論は気泡のように停滞していたのです。
しかし約半世紀後、EPFL在学生のワシム・ダウアディさんは、この液体の薄膜に答えがあると見て、詳細な分析調査を敢行しました。調査は、同学にあるEMSI(Engineering Mechanics of Soft Interfaces laboratory)研究室長のジョン・コリンスキー氏と共同で行われています。
薄膜の観察には、「光干渉法」が用いられました。これは、波としての光の性質を利用することで、観察したい対象の表面形状や状態を特定する方法です。
その結果、薄膜の厚さは、わずか数十ナノメートル(1ナノメートル=10億分の1メートル)しかないことを発見。加えて、気泡に熱が与えられると、薄膜の形が変化し、熱が逃げると再びもとの形に戻ることも判明しました。
「これはつまり、薄膜の厚みがゼロになるという最新の研究結果を否定するもの」とコリンスキー氏は説明します。
そして、ダウアディさんが発見した最も重要な事実は、気泡が静止しておらず、実際には超低速で上昇していることでした。人の目にはゆっくりすぎて止まっているように見えるものの、気泡はごくごくゆっくりと動いていたのです。
これは、チューブの内壁と気泡の間の膜がきわめて薄いため、上昇を妨げるほどの強い抵抗力が生じていることが原因でした。長年の間、「止まっている」と考えられた気泡は、実際には「動いていた」のです。
コペルニクス的転回とも言えるこの発見は、今まで誰も成し遂げたことのない快挙でした。コリンスキー氏は「この結果は、多孔質岩の中に詰まっている自然ガスの動きを解明するのに役立つ」と指摘します。
ダウアディさん本人は「研究当初は、この問題の解決策があるとは思っていませんでした。答えが用意されている宿題とは違って、学ぶことが非常に多かったです」と話しています。