食物繊維の働きをダイレクトに監視
この研究では、最初は豚を使って実験を行っていましたが、論文では実際人にカプセルを飲み込んでもらう実験までこぎつけています。
研究者たちはまず、カプセルの腸管内での動きを監視しました。これによると、カプセルは飲み込んでから体外へ排出されるまでに20時間かかり、内訳は胃に4.5時間、小腸に2.5時間、大腸に13時間という結果になりました。
消化器系のガスレベルは、大腸に達したところで水素や二酸化炭素が高い値を示しますが、酸素は一貫して低い状態が維持されていました。これは腸内細菌の多くが嫌気性(酸素に弱い性質)であるためと考えられます
被験者には最初、非常に食物繊維の多い食事とともに飲み込んでもらいました。食物繊維を多く含む食品とは、一般的に穀類・野菜・きのこ・豆類・根菜類などです。
この場合、カプセルが体外へ出るまでに23時間かかりました。食物繊維は未消化のまま大腸へ到達し、そこでビフィズス菌などを始めとした善玉菌の働きで発酵して、短鎖脂肪酸を作ります。これは酸の一種で悪玉菌を殺菌する作用があります。
食物繊維を摂ることや、ヨーグルトがお腹にいいと言われるのは、この短鎖脂肪酸を作るためなのです。
しかしこの実験では、被験者は食物繊維の取り過ぎで腹痛を起こしてしまいました。これは食物繊維の摂りすぎが原因で、大腸内の酸素濃度が上昇し、嫌気性の善玉菌がダメージを受けてしまったためだと考えられます
実際この時の便を採取して調査したところ、腸内細菌叢は悪玉菌へシフトしていることが確認されました。過ぎたるは及ばざるが如し、ということでしょうか。
2回目の実験では、今度は食物繊維をほとんど摂らない食事をしてもらいましたが、こちらも問題がありました。このときカプセルは体外へ出るまで3日強かかったのです。
このとき大腸内では水素ガス濃度が急低下しており、発酵が減退していることが示唆されました。追加で食物繊維を摂ることで、この状態は12時間ほどで回復したと言います。
この食物繊維の比較実験は他に4人の被験者を使って行いましたが、いずれも腸内ガスは同様の傾向を示しました。
高繊維質の食事が腸内の酸素濃度を上げるというのは新しい発見です。それまで腸内は基本的に無酸素状態が保たれると考えられていたのです。
実験は、適切な量の食物繊維を摂ることが、消化器系の健康を保つためにいかに重要かということを示しています。