伐採方法と再利用方法などの課題も
ただし、こうしたベネフィットを手に入れるには条件があります。それは、木材を調達する場所と、建物が寿命を迎えた時の木材の処理に関する条件です。
マスティンバーの材料は、軟木と硬木に加えて、竹などの木材を幅広く、従来よりも多く伐採することで入手する必要があります。
また、マスティンバーを用いた建築は、寿命を迎えた時にその材料を再利用できる形で初めから設計されなければなりません。さらには、取り壊された建物に使われていた木材の再利用を促すことも重要です。
研究チームが分析したところ、2010年時点で、世界の3分の2の国々で、木材の伐採量が森林の成長速度に追いついておらず、手つかずの資源が残っているとのこと。現在、伐採済みの丸太の約半数は燃料として燃やすために使われているため、その使い道をマスティンバーに切り替えることができれば、CO2排出量の大幅な削減が期待できます。
一方で、気がかりなのは火事のことです。でも実は、予測に反してマスティンバーは耐火性が極めて高いことが明らかになっています。マスティンバーは着火すると、焦げて炭になった層によって中心部が守られ、建物そのものは燃え尽きずに済むのです。
マスティンバーは、従来のライトフレーム木造建築とはまったく違うものです。最近、国際建築基準においても、マスティンバーは「防火性が認められる」資材として認められました。
もちろん、コンクリートや鉄からマスティンバーへの切り替えは、そう容易ではないでしょう。新しい建築基準の整備に加え、建築技術者の再訓練、建築技術の拡大など、さまざまな変革が求められます。
同時に、マスティンバーの需要が今後拡大すれば、持続可能な森林の管理、乱伐防止、森林を有するコミュニティーに対する援助などに向けた法的・政治的努力が必要です。
建築における木材の活用に関して、人類は決して初心者ではないかもしれません。ですが、気候変動への対応策として効果的な木材の利用については、今後学ぶべきことが数多くありそうです。建築の新たな資材として木材を最大限に活用し、伐採と建設の両方をスマートに管理することができるようになれば、人類は地球をより安全な住処に変えることができるでしょう。