10億歳未満の宇宙
「PSO J0309 + 27」の発見は最初掃天観測されたデータ内に見られたといいます。
その位置を世界最高峰の分解能を持つ米国アリゾナ州にある大双眼望遠鏡(LBT)で観測し、正式な発見に至りました。
それは既知の宇宙では、もっとも遠い部類にある銀河でした。しかも、この銀河は地球に正面を向けたブレーザーだったため、この距離でこれまで観測された中でも、もっとも明るい電波源です。
この果てしなく遠方の天体との距離は、赤方偏移という宇宙の膨張速度と光の波長の伸びから計算されています。赤方偏移の値は6.1(大きいほど遠いことを示す)で、それは実に地球から130億光年という距離でした。
つまりはビッグバンから10億年程度しか経っていない宇宙で放射されたジェットを、私達は観測しているのです。宇宙誕生から10億年以内の強力な持続的電波源というのは、とても貴重な観測対象です。
これは謎の多い初期宇宙の様子を詳しく調べる、またとない機会でしょう。
「PSO J0309 + 27」の活動銀河核は質量が太陽の10億倍程度と推定されていて、この観測からは、ビッグバン発生後10億年の間に、強力な相対論的ジェットを放出する、非常に大規模なブラックホールがすでに多数存在していたことを示しています。
この観測結果は、今後、超大質量ブラックホールブラックホールの起源をモデル化しようする場合に、非常に厳しい制約を課すデータになるだろうと、研究者は語っています。
現在のもっとも有力な大質量ブラックホールの形成原理は、恒星サイズのブラックホールが物質を取り込みながら、何十億年という時間をかけてゆっくりと成長していくというものです。
しかし、ブラックホールは思ったほど物質を飲み込まないということもわかっていて、大質量ブラックホールの形成には多くの謎が残っています。
新しい強力な初期宇宙の観測対象が見つかったことは喜ばしいことですが、ここから見つかる事実は現在の大質量ブラックホールが短時間で急成長していることを示すもので、観測内容と無矛盾なモデルを考えることがどんどん難しくなっていくようです。
わかればわかるほど謎が深まるのは、天文学の面白いところであり、困ったところかもしれませんね。