- モジホコリカビは、最適化された輸送ネットワークを作成し、複数の食料源を接続する、最も効率的な経路を見つける能力がある
- モジホコリカビが宇宙の大規模構造をも再現可能だと判明
宇宙は現在、銀河が密集した銀河フィラメントや、ほとんど銀河が存在しないボイド(超空洞)などから構成されており、そのような三次元ネットワーク構造を宇宙の大規模構造と呼びます。
天文学者たちはいま、この大規模なネットワークの地図を作成しようとしていますが、観測力には限度があり、全てを網羅することはできていません。
一方、生物の世界でも、モジホコリカビ(Physarum polycephalum)と呼ばれる粘菌は生存に最適なネット状の構造をとることが知られています。
日本の中垣俊之教授らによる研究では、現実の日本都市の位置を参考にエサが配置されると、モジホコリカビは実際の鉄道網とそっくりなネットワークを再現できることが証明されました。
そこで今回、アメリカの研究者たちは、このモジホコリカビの高い現実再現能力を利用し、宇宙に広がる大規模ネット構造をモジホコリカビに描かせることを思いつきました。
モジホコリカビの現実再現能力が本物なら、適切な餌と容器の配置で、三次元的な宇宙地図を描き出してくれるかもしれないからです。
果たして粘菌は宇宙の大規模ネット構造を描けるのでしょうか?
研究内容はカリフォルニア大学サンタクルーズ校のジョセフ・N・バーシェット氏らによってまとめられ、3月10日に学術雑誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載されました。
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ab700c
粘菌は最適化されたネットワークを形成する
これまで、中垣俊之教授らの研究によって、モジホコリカビは、最適化された輸送ネットワークを作成し、複数の食料源を接続する、最も効率的な経路を見つける能力があることが明らかになっています。
また宇宙に存在する物質は、ビックバンからはじまる宇宙の構造的な成長により、ある意味、最適なネットワークを生成していると考えられてきました。
そのためモジホコリカビと宇宙のネットワークは生成されたプロセスこそ異なりますが、類似した数学的構造を生成すると、研究者たちは予測しました。
しかし、宇宙に存在する銀河の数は2兆個ともいわれており、この数に対応するモジホコリカビやエサを用意するのは現実的に不可能です。
そこでバーシェット氏らは、モジホコリカビの増殖や移動といった活動と、エサを配置する培養スペースの2つをプログラム上で再現することにしました。
しかし、生物の活動パターンの数式化も仮想宇宙モデルの生成も、どちらも簡単ではありません。
バーシェット氏らは10年以上の年月をかけて、幾度もテストと改良を繰り返しました。そしてついに、現実のモジホコリカビの挙動をプログラム上でほぼ完璧に模倣することに成功したのです。
またプログラム化されたモジホコリカビを活動させる仮想宇宙モデルについても、宇宙に存在する暗黒物質の密度分布をシミュレーションすることで構築しました。
暗黒物質は目に見えませんが、宇宙の物質の約85%を占めているため、その莫大な重力によって、宇宙のネット構造(フィラメント部分)の分布は暗黒物質の分布に従うと考えたからです。
現実世界の宇宙ネットのフィラメント部分は物質濃度が凝縮された部分であり、特に濃度が濃い部分では銀河がうまれます。
一方、仮想宇宙モデルでは、物質濃度を高く設定された場所が、プログラム化されたモジホコリカビのエサ場として機能します。
仮説が正しければ、プログラム化されたモジホコリカビはシミュレートされた宇宙の中に、最適なネット構造を形成するはずです。