虫歯の原因 プラークを解析
私たちにとって、もっとも身近なバイオフィルが、歯の根本にできる歯垢(プラーク)です。
今回の研究者たちが対象にしたのも、人間の口腔内に棲む細菌、ストレプトコッカス・ミュータンス(通称ミュータンス菌)です。
ミュータンス菌は、集まるととてもネバネバとしたプラークを作って歯にべったりと張り付きます。
そして、口腔内にある食べカスから糖分を分解して増殖していきます。このとき酸が生産され、それが歯を腐食して虫歯の原因になるのです。
ちなみにミュータンス菌の酸の生産速度と、人体が歯を修復する速度は大体一致しているので、きちんと規則正しく食事を取っている人は虫歯になりにくいと言われています。
虫歯になる人は、間食などで、歯の修復が追いつかないほど勢いよくミュータンス菌に餌を与えている人なんだとか。
研究者たちは、このミュータンス菌がバイオフィルムを形成するまでの様子を観察し、そのメカニズムの解明を目指しました。
彼らは最初、すべての細菌が増殖していくと考えていました。しかし、実際は増殖するの40%程度で、あとは死滅するか、他の巨大化したコロニー(マイクロコロニー)の成長に飲み込まれてしまいました。
マイクロコロニーとは巨大化(顕微鏡で観察できるサイズ)した細菌コロニーのことで、バイオフィルムの手前の段階です。
基本的にマイクロコロニーの段階では歯磨きで洗い落とせますが、バイオフィルムまで成長されると歯磨きやフロスでも、除去することが困難な粘着性を発揮します。
コロニーの細菌たちは基本的に定住するのですが、一部の細菌たちは移民を始めることがわかりました。
移民者たちは隣接する細菌たちと混ざり合い高密度のマイクロコロニーを発生させていき、新しいクラスター(集団)を作り始めるのです。
クラスターが発生すると、非常に不思議なことに彼らは相互作用を始め、高密度に集積して、成長・組織化され、バイオフィルムの上部構造を形成し始めるのです。
過去の研究では、細菌同士は栄養素の不足などで敵対することが報告されていました。しかし、今回の発見はそんな彼らが協力関係を築き始めたことを示しています。
栄養素の取り合いが作用するのは、コロニーの発生段階だけでした。個々のマイクロコロニーは競合することなく成長を続け、複数のマイクロコロニーが合流した後は、単一の新しい調和した共同体として振る舞うのです。
より多くの敵対的な外来種を混入させた場合のみ、この平和な集団は影響を受けて、成長が低下したと、研究者は報告しています。