- もっとも明るい天体クエーサーから、太陽の数百個分という高速放射の津波が観測された
- 銀河はある質量に達すると成長を止めることがわかっていたが、その原因は謎だった
- 今回の発見は、長年天文学者たちの疑問だった、銀河成長停止の原因であると考えられる
宇宙に存在する銀河の中心には、巨大なブラックホールがあります。
その中でも、太陽の数十億倍以上という超大質量ブラックホールを中心に持ち、宇宙でもっとも明るい天体と表現されるのがクエーサーです。
たいてい巨大なブラックホールは、ジェットと呼ばれる巻き込んだ物質を勢いよく宇宙空間へ吹き飛ばす放射を行っています。
しかし、それとは別にクエーサーは巨大津波のような現象を銀河円盤全体に引き起こしていて、その津波は星形成に必要な物質を銀河の外へと押し流していることがハッブル宇宙望遠鏡の観測により、発見されました。
銀河はある質量で成長を止めていることがこれまでも知られていて、その原因は謎とされていました。
今回の発見は、この銀河成長停止の原因を説明する重要なプロセスであるとされています。
この研究は、バージニア工科大学及び宇宙望遠鏡研究所の研究者等による研究チームより、6つの論文として発表され、2020年3月に天文学を扱う査読付き科学雑誌『Astrophysical Journal, Supplement Series』に掲載されています。
https://iopscience.iop.org/journal/0067-0049/page/Focus_on_HSTCOS_Observations
クエーサーのおさらい
クエーサーは、中心に活動銀河核を持つ銀河の一種です。
活動銀河核とは、銀河全体を凌駕するレベルで強力な電磁放射を行っている銀河中心の非常に狭い領域のことを指します。
その正体は太陽の数十億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールの降着円盤だと考えられています。ここでは吸い寄せられた物質が猛烈な勢いで回転し、摩擦することで強い熱エネルギーを放ち、それが強力な電波源になっているのです。
活動銀河核を持つ銀河は、いくつか種類がありいずれも明るい天体ですが、中でももっとも明るものをクエーサーと呼びます。
クエーサーという名前は準恒星状天体(quasi-stellar)の短縮読みです。
クエーサーはあまりに明るいため、可視光観測では細かい内部の構造が眩しくて見えません。そのため、銀河なのにまるで点光源の恒星のように見えるため、この準恒星状天体という呼び方がされています。
この画像は、地球からもっとも近いクエーサーの1つ「3C273」をハッブル宇宙望遠鏡で観測したものです。
左は可視光観測で、眩しくて1つの恒星のようにしか見えません。右側はコロナグラフという装置を使い眩しい可視光を取り除いて撮影した画像で、銀河としてのクエーサーの姿を見ることができます。
クエーサーは非常に若い銀河の姿で、古い宇宙にしか存在しません。古い宇宙とは地球から何十億光年も離れた領域を指します。
そのため、クエーサーは非常に遠方の宇宙だけに観測できる天体なのです。
やがて、クエーサーは私たちの見慣れた銀河へと成長していくと考えられています。しかし、クエーサーの活動から予想される銀河の成長と、実際見つかる銀河のサイズはあまり一致しません。
大きな銀河は宇宙ではほとんど見つかることがなく、銀河はある質量に達すると成長を止めているということがわかっているのです。
大きい銀河は、複数の銀河が衝突して合体することで生まれています。
なぜ、銀河は一定以上には成長しないのでしょう? これは今まで天文学者の抱える謎の1つになっていました。