鉛は風に乗りアルプス山脈へ
ラヴラック教授は「この時の鉛の灰塵が北風に乗り南下して、アルプス山脈のコッレ・ニフェッティに漂着したのでしょう」と推測します。
実際に、氷床コアに発見された鉛の痕跡は、年代測定により、1170〜1220年のものと特定されているのです。
調査には、「レーザーアブレーションICP質量分析法(LA-ICP-MS)」という方法が用いられました。
これは、分析したい固体のサンプル表面に、集光したレーザーを照射します。その後、蒸発・微粒子化したサンプルをキャリアガス(サンプルを運ぶための不活性ガス)を用いてプラズマ内に導いて分解し、イオン化させます。
生成したイオンを質量分析計で測ると、照射された領域の情報がこと細かに得られるのです。
同研究チームのアレクサンダー・モア氏は「これにより何百年も前の氷床の秘密が、本を読むように解明できた」と話します。
アルプス山脈まで飛翔したこと考えると、イングランドでは大規模な大気汚染が発生したはずです。
ラヴラック教授によると、「その汚染レベルは18世紀半ば〜19世紀に起きた産業革命と同等」であり、本研究は「大気汚染」という概念が産業革命から生まれたことを否定するものとなっています。