世界は最初、「無」でした。
「無とは一体 うごごごご」と言いたくなりますが、実は「無」は物質と反物質がくっついて出来ていて、物質がポロッと剥がれると、そこに反物質の穴が空くのです。
宇宙の始まりビッグバンの衝撃で、その無は崩れ、物質と反物質がボロボロと生まれました。
反物質は物質とは対称的な性質を持った存在です。もともと1つだった両者は、出会うと消滅して再び無に帰ってしまいます。
「すべてのそんざいを消し、そしてわたしも消えよう。永遠に!」
そんなノリですね。
じゃあ、なんで宇宙は物質で満たされているんでしょう? 宇宙の法則が乱れたのでしょうか?
これは宇宙の成り立ちを理解しようとしたとき立ちはだかる、大きな疑問です。
この問題は、物質と反物質が実は完全に対称な存在ではなく、少しだけ異なっていて、そのため対消滅が起こらない場合がある、と考えれば解決できます。
100億の粒子と反粒子が誕生しても、その内のほんの数個でも粒子だけ残されれば、宇宙は物質で満たされた状態に移行していけるのです。
これを専門用語では「CP対称性の破れ」と言います。
しかし、そんなこと一体どうやって確認すればいいんでしょう?
これを成し遂げたのが、過去にノーベル賞受賞で話題になったスーパーカミオカンデです。
新たな研究は、素粒子の一種ニュートリノと反ニュートリノを使って、両者が完全に対称な存在でないことを高い精度で確認したというのです。
ニュートリノってなんだっけ?
ニュートリノは、中性(電荷を持たない)の素粒子で、原子を構成するような粒子よりも遥かにたくさん存在していて、私たちの身体を1秒間に1兆個近く通り抜けています。
ぜんぜん気づかなかった、という人は鈍いわけではありません。ニュートリノは幽霊のよう粒子で、ほとんど物質と相互作用することがありません。地球さえ簡単に貫通してしまいます。
クラスで誰とも関わらない子は、いるのかいないのかわからない、というのと同じように、相互作用しないニュートリノもいるのかいないのかわからないのです。
そのため、非常に観測が難しく、長らく理論上の存在でした。その検出に成功したのがカミオカンデという岐阜県の巨大な検出装置で、この功績でこの研究はノーベル賞を受賞しました。
ニュートリノには、3種類のフレーバーと、3種類の質量によって分類されています。
ニュートリノは質量を持たない、という説明をよく聞きますが、実は電子の100万分の1という非常に小さな質量を持っています。
ただ、ニュートリノは固有の質量を持っているわけではなく、各フレーバーごとに3種類の質量を同時に混合した状態で持っています。
「質量が混合してるってなにごと!?」となりますが、このあたりが素粒子のよくわからないところなので深く考えるのはやめましょう。
そしてニュートリノは、素粒子なので「波」と「粒子」の性質を同時に持っています。
ニュートリノの3つの質量は、それぞれ固有の振動数を持った波として空間を伝わっていきます。
今度は「波が質量を持つってなにごと!?」となりますが、このあたりが素粒子のよくわからないところなので深く考えるのはやめましょう。
そして、各フレーバーのニュートリノは、3つの質量の混合なので、合成波として空間を伝わっていきます。
この合成波となったニュートリノは、空間を伝わる中でうねりを生じ、長距離移動すると波の位相がズレていきます。
すると電子ニュートリノがミューニュートリノに変わるなど、別のフレーバーへ途中で変化してしまうのです。
こうした現象をニュートリノ振動と呼びます。
今回の研究が行ったことは、このニュートリノ振動を利用して、ミューニュートリノと反ミューニュートリノが同じ距離移動したとき、別のフレーバーへ変化してしまう割合が、どう異なるかという検証から、粒子、反粒子の対称性の問題を調査したのです。