記憶が呼び覚まされる快感
しかし、これに反対する理論もあります。
神経学者のJaak Panksepp氏は、幸せな音楽より悲しい音楽のほうが鳥肌が立つ場合が多い、という報告をしています。
哀愁を帯びた曲は、古い記憶を誘発しやすく、それが私たちをノスタルジックな気分に浸らせ、ゾクゾクするような感覚を呼び覚ますのです。
彼の理論の興味深い点は、この感覚のほとんどが悲しい気分にさせるわけではないという点です。
悲しい曲をトリガーとしながらも、そこで呼び起こされるのはポジティブな感情であることが、最近の研究でわかっています。
芸術を通して感じる悲しさ侘しさといったものは、仕事の嫌な経験による悲しみとは別種のものです。こうした悲しさは、むしろ楽しさとして感じられるものなのです。
これには別の研究で提示されている理論があります。感情を処理する扁桃体は、地味な音楽に対してはある種の恐怖反応を活性化させます。これは髪の毛が逆立つような警戒感に近いものです。
このとき脳は実際に危険があるかの判断を行いますが、当然何も心配することはありません。するとその反動から恐怖反応はポジティブな感情に変わり、ただゾクゾクと感じた悪寒だけが残るのです。
それは快感に似た感覚です。
これは音楽に限らず、ホラー映画などを含めて全般的に言える人の反応でしょう。