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「事象の地平面」を持たない新たなブラックホールの姿が理論的に導かれる。 情報問題も解決可能 (2/5)

2020.07.10 Friday

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新しいブラックホールの姿

新たな研究はそんな矛盾を含んだブラックホールを、新たな姿で記述しています。

研究チームは、最初から蒸発の効果を取り入れて、物質が潰れていく過程を理論的に解析しました。

その様子をわかりやすくするために、下の図を参考に見ていきましょう。

画像
量子力学の効果を取り入れたブラックホールの形成と蒸発。/Credit:理研,Hikaru Kawai and Yuki Yokokura(2020)

まず、ブラックホール化する天体と、吸い込まれる周辺の物質を球状の物質と考えてみましょう(A)。

この球ではたくさんの物質が層状に重なっています(A1)。それぞれの層は粒子の繋がりでできています(A2)。この粒子が中心の強い重力に引かれて落ちていくとします(A3)。

ブラックホールの大きさ(シュワルツシルト半径)は、より内側にある物質の質量(エネルギー)で決まります。

シュワルツシルト半径の内側に粒子が入ってしまったら、もう逃れることはできません。

しかし、このシュワルツシルト半径はホーキング輻射によって内側の物質がエネルギーを失っていくため、どんどん縮んでいきます。

落下した粒子がシュワルツシルト半径の近くまできたとき、落下と蒸発の効果が釣り合って粒子が落ちた分だけシュワルツシルト半径が縮まります。

すると、粒子は永遠にシュヴァルツシルト半径の内側には落ちない状態になります

まるでアキレスと亀のようなお話ですが、ここでは2つの速度が釣り合っているので、永遠に粒子は収縮するシュワルツシルト半径に追いつくことができません。

これが球状の物質のあらゆる場所で起きると、球はどんどん収縮して、内側は中身の詰まった高密度の物体になります(B)。これがブラックホールです。

そしてわずかに外側にある吸い寄せられた粒子の集まりはブラックホールの表面として観測されます。

これは重力で潰れていく球状物質の内部を、「半古典的アインシュタイン方程式(量子力学の効果を含むアインシュタイン方程式)」の解として構成することで得られた、新しいブラックホールのイメージです。

表面とシュワルツシルト半径の差はほぼ0に近いため、見え方は今まで考えられてきたブラックホールと変わりません。

しかし、この解には特異点が現れません。それはここで描かれるブラックホールが捕まったら脱出不可能となる事象の地平面を持たないことを意味しています。

また、真空の量子力学的効果で発生する大きな圧力が、この物質を支えていることがわかりました。

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