- 内部構造のある「事象の地平面」を持たない新しいブラックホールの姿が理論的に導かれた
- ブラックホールは強重力で、物質が取る高密度の新たな相と捉えることができる
- これまで謎の多かったブラックホールの保持する情報量も、従来の予想と整合的に計算できる
ブラックホールというと、なんでも吸い込む宇宙に空いた穴のようなものを想像する人が多いでしょう。
これまでイメージされてきたブラックホールは、まさに穴の様な存在で、「事象の地平面」という重力の滝壺みたいな領域に落ちてしまうと、光さえ脱出できなくなると言われていました。
このため、内部がどのようになっているかは一切わかりません。
しかし、理化学研究所と京都大学の研究者による共同研究チームは、ブラックホールの内部を論理的に記述した新しいブラックホールのイメージを発表しました。
新しいイメージでは、ブラックホールが「事象の地平面」を持たない高密度の物体であるとされ、強い重力下であらゆる物体が取り得る極限状態の新しい相であると表現されています。
この解に従えば、ブラックホールの重大な未解決問題の1つ「ブラックホール情報パラドックス」も解決できるといいます。
一体ブラックホールの真の姿とは、どのようなものなのでしょうか?
これまでのブラックホールのイメージ
観測技術の向上で、最近では周囲を取り巻く降着円盤の撮影まで成功したブラックホールですが、その内部の様子については何もわかっていません。
ブラックホールは極めて強力な重力源であり、その周囲には光さえ入り込んだら脱出不可能となる「事象の地平面」が存在するためです。
しかし、現在ではブラックホールはいっさいなんの放射も行わない天体ではなく、「ホーキング輻射」によって蒸発している天体だということが理論的に示されています。
無である真空中は、実はなにも存在しないわけではなく、物質と反物質がくっついているために何もないように見えているだけなのです。そのため真空中では常に粒子と反粒子が対生成・対消滅を繰り返しています。
事象の地平面すれすれで対生成が起きると、反物質がブラックホール内へ吸い込まれ、ブラックホール内部の物質と対消滅を起こしてブラックホールの質量(エネルギー)を奪います。
一方で、反物質を失った片割れの物質は、この世の存在として宇宙へ解き放たれます。
これがいわゆるホーキング輻射の原理です。(詳しくはこちらの記事を参照)
こうしてブラックホールは徐々に蒸発し、理論上は最終的に消滅してしまいます。
ここで問題となるのが、ホーキング輻射で放たれる物質(光子)は、ブラックホール内部の物質と無縁だということです。
物理学ではこの世のあらゆる物質は、自分がかつてなんであったかという情報を保持していると考えられています。
極端にいえば、炭になった火災現場を調査して出火原因を特定できるのも、現在の宇宙を観測してビッグバンまでの歴史を遡ることができるのも、物質がかつての情報を保持しているからです。
たとえ素粒子であっても、それは例外ではありません。素粒子も波動関数として過去との情報の繋がりを持っています。その情報は時間とともに発展するというのが量子力学の基本的な考えです。
一般相対性理論ではブラックホールを巨大な時空の歪みとして記述します。この考え方に従うと、「事象の地平面」内に捕らわれた物質は二度と外へ出てくることはできません。
そうなると、ブラックホールが全然関係ない対生成で生まれた粒子を放射しながら消滅したとき、吸い込まれた物質が持っていた情報はどこへ消えてしまうのでしょうか?
これが「ブラックホール情報パラドックス(あるいは単に情報問題)」と呼ばれる未解決問題です。