- ヒッグス粒子は物体にまとわりついて質量を与える
- ヒッグス機構の証明は、実は重い素粒子でしか行われていなかった
- 今回の研究でより軽い素粒子でもヒッグス機構が成り立つ可能性が示唆された
ヒッグス粒子はこの世を構成する素粒子に質量を与える特別な粒子として知られています。
ヒッグス粒子の存在が知られるようになる前は、質量は物質の「内部」に存在する物理量であり、物質とは不可分だと考えられてきました。
しかし素粒子物理学の発展により、質量は物質の「内部」ではなく、物質にヒッグス粒子がまといつくことで「外部的に」生じることがわかってきました。
この素粒子に対するヒッグス粒子のまといつきは「ヒッグス機構」と呼ばれており、2012年にヒッグス粒子が発見されてから現在に至るまで、素粒子物理学において最も注目される粒子になりました。
ですが、ヒッグス粒子の発見だけではヒッグス機構を証明できていません。
ヒッグス機構を証明するには、数ある素粒子たちの質量がヒッグス粒子のまといつきによってどのように生じているかを、一つずつ観察を通して確認していかなければならないのです。
これまでの研究によって、上の図において黄色で示される第3世代の重い素粒子として知られるタウ・ボトム・トップ及び力を伝える素粒子であるW・Zが、ヒッグス粒子と相互作用して質量を獲得していることがわかっています。
これらの素粒子がヒッグス粒子との関係を先行して証明できたのは、他の素粒子に比べて大きな質量を持っているために、ヒッグス粒子と強く結びついていたからです。
残りの素粒子についても、同じようにヒッグス粒子との相互作用を証明できれば、ヒッグス機構を完全証明することが可能になります。
ただし、重い粒子では比較的簡単に解明できたヒッグス粒子との相互作用も、軽い第2世代の素粒子では上手くいきませんでした。
ですが今回、CERNの研究者たちにより第2世代のミューオンがヒッグス粒子と相互作用している様子が観測されました。
これまでの観測ではヒッグス機構の適応が重い素粒子に限られていましたが、今回の観測により、より軽い素粒子にもヒッグス機構が適応できる可能性が示唆されたとのこと。
どのようにCERNの研究者たちはどうやってミューオンとヒッグス粒子の相互作用を確認したのでしょうか?
ヒッグス粒子の崩壊を観測する
観測において鍵となるのは、ヒッグス粒子の崩壊現象です。
ヒッグス粒子は生成直後に崩壊をはじめて別の素粒子へと変化していってしまいます。
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このときヒッグス粒子の崩壊速度を測定することで、ヒッグス場と素粒子の相互作用する強さを測定することができるのです。
またこの測定値から逆算することで、崩壊によってうまれる素粒子とヒッグス場の与える質量の関係も導き出すことができます。
しかしこれまでヒッグス粒子が重いボトムやW・Zへと崩壊していく様子はとらえられても、軽いミューオンに崩壊する様子は確認できませんでした。
というのも、ヒッグス粒子がミューオンに崩壊することは理論上、非常に稀(5000個に1個程度)な上に、実験装置の内部で起こる他の素粒子の崩壊によってもミューオンは生成されるために、特定のミューオンがヒッグス粒子の崩壊によって生じたかどうかの判断がつかなかったのです。
しかしCERNの研究者たちは装置を改良してミューオンの検出能力を向上させ、さらに機械学習も利用することで、ヒッグス粒子の崩壊がミューオンを生成することを突き止めました。