過冷却水の謎
凍結を許さず氷点下に冷やされた水「過冷却水」は長年、科学者の悩みの種でした。
なぜなら、通常の物質は冷えれば冷えるほど、分子の動きの変動が小さくなる一方で、過冷却状態の水は冷やせば冷やすほど謎の分子運動を起こしていたからです。
この分子運動は近年になって密度変化が原因ではないかと疑われるようになっていました。しかし、過冷却水は通常、形成されてから数ナノ秒後に凍結してしまうため、それを検証する手立てが限られていたのです。
ところが今回、アメリカのパシフィックノースウェスト国立研究所のクリングル氏らは、マイナス200℃に冷却されている氷に対してレーザーパルスを照射することで、断続的に過冷却水を生成させ、分光法で解析することに成功しました。
結果、過冷却状態の水が、上図のように密度の異なる2つの構造に分離していることがわかったのです。
右側にあるのは「高密度で乱雑」な構造であり、私たちの知る常温の世界では優勢な形です。
しかし水を液体のまま過冷却することで、左側の「低密度で規則的」な構造が現れることが判明しました。
次にクリングル氏らは過冷却水をマイナス33℃からマイナス99℃の間で生成してみました。
2つの液体の状態が、液体と気体の変化のように、温度変化に依存して現れるかどうかを調べるためです。
結果、冷えれば冷えるほど「高密度で乱雑」だった液の割合は減少していき、マイナス103℃以下になると、全ての液体が左の「低密度で規則的」な液体に置き換わりました。
しかし真に興味深い点は低温ではなく、私たちの知る常温世界にありました。
温度が上がるにつれて「高密度で乱雑」な液の割合は増えて行きましたが「低密度で規則的」な液は0℃を超えても(本研究では20℃まで想定)全滅していない可能性があったのです。
これはつまり私たちが「普通の水」だと思っていたモノが、既に2種類の液体(高密度で乱雑と低密度で規則的)が混ざったものである可能性につながるかもしれません。