ヘリウムで発声方法を検証
いまいちよくわからないワニの発声メカニズムが、私たち哺乳類や鳥類と同じ声帯や声道を使っているか確認するにはどうすればいいでしょうか?
そこで研究チームが考えついたのが、ヘリウムをワニに吸わせて声の高さがどう変化するか確認するという方法だったのです。
パーティーグッズとして売られているように、ヘリウムを吸うと人間の声はまるでアヒルのような甲高い変な声になってしまいます。
これはヘリウムと通常の空気では音の伝わる速度が異なるためです。ヘリウムは分子のサイズなどの関係で、通常の空気よりも音を速く伝えます。これが声道で共鳴する際、周波数を変化させて声を高くしてしまうのです。
つまり声道を使った共鳴のメカニズムがなければ、ヘリウムを吸っても声の高さは変化しません。
西村准教授らの研究チームは、水槽に閉じ込めた中国の固有種ヨウスコウアリゲーターを使って実験を行いました。
実験に使ったのはメスのワニで、オスの鳴き声を繰り返しスピーカーで聞かせてそれに答えるように唸らせました。
これを通常の場合と、水槽内にヘリウム(実際はヘリウムと酸素の混合気体ヘリオックス)が満たした場合で録音したのです。
ちなみにヨウスコウアリゲーターの鳴き声は下の動画で聞けます。
実験で録音したヨウスコウアリゲーターの鳴き声を分析した結果、ヘリウムを吸ったワニの鳴き声はフォルマントという声を特徴づける周波数が高くなっていました。
つまりこの実験から、ワニは哺乳類や鳥類と同じような方法で発声を行っていることがわかったのです。
ワニは進化系統上鳥類ともっとも近縁の種で、主竜類に含まれています。この主竜類はワニ、鳥類の共通の祖先である絶滅した恐竜も含まれています。
今回の研究のように、ワニの発声システムを理解していけば、絶滅した恐竜がどのように発声し、仲間とコミュニケーションをとっていたかについても、洞察を得ることができるのです。
これはイグノーベル賞の目指す通り、笑ってしまうようなヘンテコな研究でありながら、実際は深く考えさせられる内容です。
なお、日本人の関わった研究のイグノーベル賞受賞は今回で14年連続になるそうです。おめでとうございます。