音にとっての完璧な壁を用意する
クラインのトンネル効果を観測するにあたり、研究者たちが光や電子の代用品として選んだものは「音」でした。
音は光や電子と同じく波としての性質があります。
そして音を完璧に遮断する壁として「フォノン結晶」を選びました。
自然界に存在する物質には光や音を吸収も透過もさせない「光の絶縁体」や「音の絶縁体」は存在しません。
どんな物体でも光があたるとエネルギーを吸収するか、ガラスのように透過させてしまいます。
同様にどのような物体でも音波があたると振動エネルギーを吸収するか、隣接する物体がある場合は揺れを通して音を伝達してしまいます。
ですが、上の図のように、光や音の周期構造を反映した穴あき板を人工的に作ることで、光を絶縁するフォトン結晶や音を絶縁するフォノン結晶が作れるのです。
今回の実験では音を絶縁するフォノン結晶が作成され、音波に対する完璧な絶縁壁となり、音波を阻止することになりました。
もしクラインのトンネル効果が正しければ、音はこの完璧な壁をトンネル効果で通り過ぎ、出力を全く減衰させることなく向こう側の空間に飛んでいくはずです。
実験を行った結果は明白。
音は壁に接触したときと全く同じ出力を維持したまま、壁の向こうに向けて飛んでいく様子が観測されたのです。