壁抜けの魔法は世界の法則そのものだった
今回の不思議な壁抜け現象を電子とグラフェン(壁)を用いた実験で代用すれば上の図のようになります。
グラフェンは炭素が結びついてできた薄いシートであり、電子を遮断する効果があります。
飛んできた電子がグラフェンの壁にあたると、壁の内部で電子は反粒子(陽電子)に変化し、エネルギー的に高い峠であるグラフェンシート内部を反対のエネルギーを帯びながら通過します。
そして壁を抜けると同時に再び電子にチェンジ、再変身するのです。
今回の実験では、電子とグラフェンの代わりに、より身近な音と音の絶縁壁(フォノン結晶)が用いられました。
音の最小単位であるフォノン(音子:準粒子の一種)も電子と同様に、壁に命中すると反フォノンに変化して抜けられないはずの壁を抜けると、再び通常のフォノンに戻って飛んでいきます。
巨視的な空気の振動である音と微視的な電子が同じように壁抜けを行う事実は、波の性質を持つ物理現象にとって壁という概念は、巨視的にも微視的にも無力であることを示します。
どうやら私たちの住む宇宙では、波の性質を持つ存在はどんなに完璧な遮断をほどこしても(むしろ完璧なほど)壁抜けしていく性質を持っているようです。
つまり、不思議な壁抜け魔法は、私たちの宇宙そのもののが帯びている性質にあったのです。