なぜ人は「陰謀論」に惹かれるのか?
陰謀論の中には「政府がエイリアンの存在を隠している」といったような、都市伝説的に楽しめるものもあります。
しかし、現在進行形で加熱する陰謀論は、火に油を注ぐ行為と同じです。
「新型コロナは5Gのせいで加速している」という先の例では、現に信奉者が5Gタワーに放火したり、従業員に暴行を働いたりしています。
またコロナワクチンに関しても、「有害物質が含まれている」とか「遺伝子コードを書き換えてしまう」と根も葉も無いウワサを立てて、研究を妨害しています。
なぜ陰謀論を過剰に支持する人が絶えないのでしょう。
陰謀論者は「無関係な点と点」を繋いでしまう
オデール氏によると、「人間の脳は、自分が生き残れる道(パターン)を見つけるように配線」されています。
例えば、木登りをしていて、これ以上体重をかけると折れそうな枝は自然に避けますし、黒く厚い雲が空にかかれば、嵐が来そうだと察知します。
私たちの脳は、常に身の回りの危険にアンテナを向けており、「ああすればこうなる」というパターン処理をしているのです。
しかし、人の脳は進化するにつれて発達し、パターンを見つけるのが上手くなりました。
とくに、大脳皮質や前頭前野など、知覚や画像処理にかかわる領域が高度に発達していったのです。
知能の向上には良いことなのですが、これが過剰に働きすぎることがあります。
オデール氏は「パターン処理が行き過ぎると、まったく関係のない点と点を繋いで線にしてしまいます。
これが陰謀論を信じやすい人の大きな特徴です」と指摘します。
ドーパミンの過剰分泌が原因?
人類はみな高度に発達した脳をもっているのに、なぜ一部の人だけが過剰にパターンを見るのでしょうか。
「これには、ドーパミンの過剰分泌が関係している可能性がある」とオデール氏は言います。
ドーパミンは、感情や認知、報酬にかかわる神経伝達物質で、意思決定(パターン処理)に強く関与します。
実際、過去の研究でも、遺伝的にドーパミンの生産レベルが高い人ほど、陰謀論を信じやすい傾向にあると判明しているのです。
また、近年の研究で、陰謀論を信じやすい性格特性も明らかになりつつあります。
代表的なのは、疑い深くて、他人をあまり信用せず、根本的に自分が住む世界を危険な場所だと考えている人です。
ドーパミンは、こうした感情や思考の傾向を強めると言われています。
陰謀を強める「確証バイアス」とは
以上のような傾向をもつ人々を陰謀論に走らせる最後の鍵が「確証バイアス」です。
確証バイアスは、社会心理学における用語で、自分の信念や仮説を証明する際に、それを支持する情報ばかりを集め、反対する情報はすべて無視する行動のことを指します。
とくに現代はSNSやネットの発達で、誤情報があちこちに散乱しており、自分に都合のいい情報だけを集めのが簡単です。
それから信奉者同士が集まってコミュニティを作り、陰謀論をますます加熱させていきます。
それが行き過ぎると、先にあげた放火や暴動といった過激行動に発展してしまうのです。
さらに、不安定で暗たんとした時代は、人々に「無力感」を与えます。
この無力感が、混沌とした社会や生活の中にデタラメな秩序を無理に見出そう(無関係な点と点と結ぼう)とさせるのです。
歴史の重大事に陰謀論があらわれるのは、人間の脳の働きと、混乱した社会情勢が組み合わさった結果と言えるでしょう。