水中界初!クラゲは「地面効果」を作り出していた
発見された2つの渦の輪っかは「ボルテックス・リング」と呼ばれ、実物の器官ではなく、半透明のボディの下でドーナツ型に回転する流体を指します。
ボルテックス・リングはそれぞれが逆方向に回転することで、まるで海底から押し上げられるような揚力を生み出していました。
研究主任のブラッド・ゲンメル氏いわく、「これは航空機に見られる地面効果(ground effect)と同じ原理」とのことです。
地面効果は、航空機が地面近くを飛ぶときに発生します。
航空機の翼は、風の流れを受けることで下面が高圧、上面が低圧の状態になります。
空気は高圧から低圧に移動するため、翼の上面へ向かって揚力(浮く力)が発生します。
また、風の流れと同方向への抗力(飛ぶのをジャマする力)も生まれるので、その分、上空で落ちないよう推進力が必要です。
ところが、翼のすぐ下に地面がある場合、それが壁となって空気の流れが集まり、上空にいるときよりも圧力がはるかに高くなります。
さらに、翼の端の悪影響も少なくなって抗力が減るため、上向きの揚力が格段にアップします。
これが地面効果です。
自然界で地面効果を体得しているものは、海鳥やトビウオなどです。
彼らは水面スレスレを翼の羽ばたきなしで滑空しますが、これは地面効果(この場合は「水面効果」ともいう)を利用することで可能になります。
そして今回の実験により、クラゲが2つのボルテックス・リングを地面代わりにして「仮想壁(virtual wall)」を作ることで、同様の効果を発生させていることが示されました。
具体的な固体の世界から離れ、水中で地面効果を使う生物はクラゲが初めてです。
8匹のクラゲを毎秒1,000フレームの高速デジタルカメラで観察したところ、静止状態からスタートした個体と比べ、動いている個体は最大遊泳速度が41%も増加していました。
ゲンメル氏は「今回判明したクラゲの遊泳法をモデルにして、エネルギー効率の良い水中探査機などが開発できるかもしれない」と話しています。