幹細胞を静脈に注射するだけで脊髄損傷が大幅に改善
脊髄は脳からの神経信号を中継する重要な器官であり、損傷すると体の感覚や運動能力が失われるという、重篤な状態を招きます。
一方で現在、脊髄損傷に対して治療法は限られており、患者本人の自然な回復力に大きく依存しています。
しかし近年の幹細胞技術の進歩により、脊髄から作られた間葉系幹細胞を投与することで脊髄損傷の症状が大きく改善することが、動物実験で明らかになってきました。
間葉系幹細胞は骨や軟骨、筋肉や血管、さらには神経細胞に変化する能力を持つことが知られている多能性の幹細胞です。
そこで今回、日本の札幌医科大学とイェール大学の研究者たちは、人間に対しての効果を確かめることにしました。
実験方法は極めて簡潔かつ負担がすくないもので、患者本人の脊髄から取り出した細胞を間葉系の幹細胞に変化させ、静脈に注射するだけとなります。
その結果、首から下が完全に麻痺していた6人の患者のうち5人で急速な症状の回復がみられ、完全な麻痺状態から脱却することに成功しました。
上の図が示すように、通常、完全な麻痺(Aクラス)に陥ってしまった場合、回復の見込みはほとんどありません。
しかしながら幹細胞を静脈注射した患者たちでは1人を除いて病状の急速な回復が起こりました。
中でも最も劇的な回復がみられた34歳の男性のケースでは、幹細胞を注射してからわずか8日後に肛門の感覚が戻り、2週間後には足の自発的な動きが復活し、184日後には手を使った食事と車椅子の運転、歩行器具を用いた歩行が可能になるまでの回復がみられました(Cクラスの能力)。
また比較的軽い症状であった患者たちでも幹細胞の注射は効果を発揮し、自然な回復に依存するよりも、大きな症状の改善がみられ、全体としては参加した患者の92%に効果が確認できました。
この結果は、幹細胞の静脈注射という簡便な方法が、治療が困難であった脊髄損傷に対して非常に効果的であることを示唆します。
ただ、ここまで効果が高いと、何が体の中で起きているかが気になりますね。