壊れないDNAのデータ保存
医療関連の話を聞いているとわかりますが、DNAは本質的に壊れやすい分子であると言えます。
それは自然界に存在する多くの酵素や、日光に含まれる紫外線などでも簡単に壊され、ほとんどの酸で分解されてしまいます。
このDNAの脆さが、長期的な実用性のあるデータ保存方法として障害となっていたのです。
そこでシャプー教授らが考えたのが、DNA(デオキシリボ核酸)の代わりに、よく似た別のトレオース核酸(TNA)を使うというものでした。
TNAはDNAに比べてはるかに丈夫で、分解されにくい性質を持っています。
TNAもDNAと同様の「A: アデニン」「C: シトシン」「G: グアニン」「T: チミン」をもつヌクレオチドで構成されています。
通常データは、1と0のバイナリコードで構成されています。しかし、遺伝情報を構成する分子は、それよりずっと複雑です。
研究では、二進法のデータを、DNAで使用される4文字のヌクレオチドコードに変換して、効果的にデータを転写する方法を見つけ出しました。
そして、2つの配列をつなぐ特殊な酵素を使うことで、ゲノム配列をもとの2進数配列に戻すことに成功したのです。
これを強固な人工遺伝子ポリマーTNAを用いて行うことで、強固でかつ低エネルギー、高密度なデータ保存を行えるようになりました。
この方法は、単なるコンセプトではなく、実際にチームはこのTNA溶液にアメリカ独立宣言文と、彼らの大学UCIのロゴを実際に転写して、その後、そのデータを読み取って再生させるテストを行っています。
このTNAという媒体は、恐ろしく複雑なため、非常に高密度で情報を保存することが可能になるのだと言います。
研究チームは、理論上たった半カップのTNA溶液を用いれば、そこにこれまで人類が歴史の中で書いたすべての本、すべての楽曲、Instagramに共有されているすべての写真を保存できる可能性があると示しています。
この方法が実現されれば、増え続けるデータ量の問題から人類は開放され、はるかに低コストで大量のデータ保存が利用できるようになるのかもしれません。