野菜を取り入れたのは、肉を食べ尽くしたから?
石器時代のヒトの食事を再建する方法として、現代の狩猟採集社会との比較は意味がありません。
200万年前には、狩猟対象となる大型動物がたくさんいましたが、今日では生態系全体が変化してしまっているからです。
そこで研究チームは、私たちの体に保存された記憶、つまり、遺伝学や代謝、身体構造を調べる方法を採用しました。
(人間の行動様式は急速に変化するが、進化は遅く、過去の痕跡を残しているため)
チームが中心に据えた問題は「石器時代のヒトは、肉食に特化していたのか、あるいは植物も食べる雑食だったのか」ということです。
さまざまな学問分野から10年の歳月をかけて、関連する約400の論文を分析し、いくつかの答えを見つけました。
その顕著な例の1つが、ヒトの「胃の酸性度」です。
私たちの胃の酸性度は、雑食動物や他の捕食動物と比べても高く、強酸性の生産と維持には大量のエネルギーが必要となります。
それだけのエネルギーを摂取するには、肉食が一番です。
また、強い酸性度は、肉が含む有害な細菌からの保護にも役立ちます。
肉食であったことを示すもう一つの証拠は、体内の「脂肪細胞の構造」です。
雑食動物の体では、脂肪は比較的少数の大きな脂肪細胞に蓄えられていますが、肉食動物では、多数の小さな脂肪細胞をもちます。
ヒトは後者の肉食動物と同じ構造でした。
さらに、遺伝的には、草食のチンパンジーが、糖分の多い食事を可能にするためにいくつかのゲノム領域を調節していたのに対し、ヒトでは、脂肪分の多い食事、つまり肉食を可能にするために調節されていました。
研究主任のミキ・ベンドール氏は「こうしたデータを見ても、初期人類が200万年の間は肉食に特化して進化したことが分かる」と話します。
考古学的な点からすると、石器時代の遺跡に見つかる狩猟道具や大型動物の骨は、当時の人々のスキルの高さや知識の豊富さを雄弁に物語っています。
ベンドール氏は「大型動物の狩猟は、暇つぶしではできません。それには多くの知識が必要で、ライオンやハイエナも長い年月をかけて学習し、狩猟技術を身につけます。
また、ヒトが狩猟技術を発達させていた200万年の間に、大型動物が激減していることも見逃せません。
これらはヒトが肉食に特化していたことを示す何よりの証拠でしょう」と指摘します。
それから、植物性食品の採取や加工のためのツールが、石器時代の終わりに集中して見つかっていることも重要です。
人類の進化はこれまで、肉食と草食の柔軟な組み合わせに支えられたと考えられてきましたが、ここでは「最初に肉食として進化し、その後に菜食を取り入れた」という新しい人類像が浮かび上がっています。
ヒトは進化の始めからバランスの取れた食事を考えていたのではなく、肉がなくなったから、仕方なく野菜を食べ始めたのかもしれません。