毛の曲がり具合が毛包内の特定の感覚を刺激する
ヒゲのセンサーはすべて毛包の基部に存在しています。
もし、外力を受けてヒゲが曲がった場合、その変形はヒゲを伝って毛包に広がり、特定のセンサーを起動させるはずです。
この感覚細胞と接触するヒゲが、毛包内でどのように変形するかを調べた研究というのは、実はほとんどありません。
この難題をクリアするため、今回の研究では、機械工学や神経科学、連束帯力学などのさまざまな専門家がチームに加わりました。
研究チームを率いたノースウエスタン大学の医用生体工学教授ミトラ・ハートマン氏は「このチームでなければ研究は成功しなかったでしょう」と語っています。
チームを支援した研究者の1人ジョン・ルドニツキ氏は、なんと地質学者です。
彼が提供した知識は、堆積物層や構造プレートの歪みなど地質学的な問題を分析するビーム理論でした。
チームはヒゲの変形が毛包内でどのように感覚細胞と相互作用するか分析するために、地球の構造プレートがぶつかり合う沈み込み帯の歪みを分析する理論を利用したのです。
こうした分析の結果、チームはヒゲの毛包内における特徴的なS型の変形を発見しました。
このヒゲの変形は、モデルによると何かに積極的に触れている場合でも、他の何かに触れられている場合でも同じである可能性が高いことがわかりました。
ネズミなどは、ヒゲを前後に揺らすことで物体の位置を探るウィスキング(whisking)という行動が知られていますが、今回の結果は、そうした実験で役立つ可能性があります。
またヒゲが外力に対して、どのように変形し感覚細胞に機能するかについては、毛包組織の硬さによって3つの仮説がありました。
case1では、毛包組織の外側が硬く、ヒゲは内部で曲がりますが、毛包自体はほとんど動きません。
case2では、毛包内の組織が非常に硬く、加えられた力に応じて毛包全体が動きます。
case3は毛包を取り巻く組織の硬さが、さほど大きくない場合で、ヒゲが曲がると毛包内でヒゲが変形すると同時に、毛包自体も動きます。
今回のシミュレーションでは、case3の状態で、ヒゲの触覚が感覚細胞へ伝達される可能性が示されています。
今回のモデルは、ネズミから収集された実験データを元に開発されていますが、ハートマン氏は、このモデルがすべての哺乳類に当てはまる可能性が高いと考えています。
人間の手などの触覚の研究は、実際かなり難しいもので、まだいろいろなことが明らかになっていません。
しかし、ヒゲの触覚機能はかなり限定的に機能するため、触覚の作用を理解するために、単純化されたモデルが提供でき、今後の触覚研究に役立つと考えられています。