嫌な記憶の「嫌」部分を無意識的な条件付けで改変することに成功!
心的外傷後ストレス障害(PTSD)をはじめとして、ネガディブな記憶はヒトの精神に持続的な負担を与えることが知られています。
しかし治療法は限られており、多くの人々が苦しみをかかえています。
そこで近年、研究者たちは問題の根本にある「記憶を治療」する新たな手法を開発しました。
この手法はまず、被験者たちに電気ショックを与えたり恐怖画像を見せたときの、脳の神経活動をMRIやEEGによって測定し、AIによってパターン化することからはじまります。
痛みや恐怖を感じた時に神経回路が発する特徴的な活動を解読して、痛みや恐怖のコードを作成するのです。
次に、被験者を再びMRIの内部に入れ、あるゲームをしてもらいます。
といってもゲームパッドやマウスを使うものではなく、精神を自己調節して、脳の状態を研究者が求めた特定の活動パターンに変化させるというものです。
求められた脳の活動パターンが、どんな感情と結びついているかは被験者たちには明かされませんでしたが、目標とする状態に達すると、報酬として現金が与えられることになっていました。
そのため被験者たちは、現金を求めて、何度も何度も脳活動を求められる状態に変化させました。
そうして、しばらく繰り返すうちに被験者たちの脳は、特定の活動パターンと報酬の関係を、パブロフの犬のように学び始めます。
この時、目的とした脳の活動パターンが「痛み」や「恐怖」から抽出したコードであった場合、非常に興味深い結果が導かれました。
なんと被験者たちは、実際に「痛み」や「恐怖」といったネガティブな刺激を与えられた場合でも、肯定的な(歓迎する)反応をみせるようになっていたのです。
また同様の実験をPTSDを患っている患者に行った場合、苦痛や恐怖にかかわるPTSDの症状が大きく緩和されることが明らかになりました。
この結果は、無意識的な精神の条件付けが、特定の感情に対する耐性を付与できることを示します。
またPTSDの患者などに対しては、トラウマの原因を再体験することなしに、記憶に刻まれた苦痛を修正できることを示唆します。