DNAを建材として使う 発想の転換
規則的に穴の並んだボードに、光る杭(ペグ)を差し込んで絵を描く「ライトブライト(LITE BRITE)」というおもちゃがあります。
今回の研究は、そんな「ライトブライト」をDNAで作ったといいいます。
この研究で、チームはバクテリオファージ(細菌に寄生するウィルスの一種)から取得した長いDNA鎖を足場として利用しました。
そして、「DNAオリガミ」の手法を使って、この鎖をペグボードのような二次元の板状にプログラムしたのです。
DNAオリガミは、DNAの自己集合によって作成されるナノスケールの2次元ナノ構造体のことで、2006年にカリフォルニア工科大学の研究者によって開発されたものです。
ここのDNAオリガミを作る過程で、研究チームは短いDNA分子「ステープルストランド(staple strand)」と呼ばれるものを加えました。
これはDNAが二次元に折りたたまれる際、いくつかのデジタル情報をエンコードした場所に、短い紐を伸ばします。
これがいわゆるライトブライトの光る杭として機能するのです。
こうして「1」「0」のバイナリ情報を行列として物理的に記録することができたのです。
このペグ(杭)となったDNAの短い鎖は、結合していると蛍光に点灯し、光学的に読み取ることができます。
ただ、このペグは可視光波長の半分以下しかサイズがないため、通常の光学顕微鏡では、光の回析限界を超えてしまい見ることができません。
そこで研究チームは、超解像顕微鏡を使用して、この情報を見て読み取ることに成功しました。
これがその画像です。
左の列がデータエンコードように設計されたペグのパターンで、真ん中の列は超解像顕微鏡を用いて実際光学的に読み出されたDNAのデータです。右の列は比較として原子間力顕微鏡の画像が示されています。
本当にそのまんまライトブライトのおもちゃのように、2次元の行列でDNAに情報が刻まれています。
顕微鏡は1回の記録で、数十万のDNAペグを画像化することができ、エラー訂正アルゴリズムを使用することで、全てのデータを確実に復元できるとのこと。
プロトタイプでは、1平方センチメートル辺り330ギガビットの密度でデータを読み取ることに成功しました。
DNAの化学的な遺伝暗号を使うのではなく、物理的な建材として利用する新しいデータストレージの利用方法は非常に面白い発想です。
ただ、こうした技術は、スマホなどに使用する小さなストレージとして想定されるわけではありません。
DNAストレージは非常に長期間の保存に耐えることが知られており、これらの技術は、基本的には数万年から数十万年もの長期間情報を保存するアーカイブとしての利用が想定されています。