1日のリズムを刻む体内時計はすべての生物共通の祖先ももっていた
1日のリズムを刻む体内時計はすべての生物共通の祖先ももっていた / Credit:depositphotos
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全生物に共通する「体内時計の部品」が明らかに

2021.05.13 Thursday

私たちの体には、自然と1日のリズムを刻む体内時計というものがあります。

体内時計は時計遺伝子というものから構成されていますが、これは哺乳類や昆虫、カビや植物で異なっており、体内時計は生物ごとに独立して誕生したというのが従来の考え方でした。

しかし、4月30日に科学雑誌『Science Advances』で発表された新しい研究は、すべての生命の共通祖先が持っていた体内時計の起源となる部品を発見した、と報告しています。

それは生命に共通する細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度を制御する因子で、この濃度増減は1日周期で繰り返されていました。

体内時計のもっとも基本的な仕組みがわかれば、睡眠障害やうつ病に対する新薬開発にも役立つかもしれません。

 

生命に共通する体内時計の部品を発見(東京大学) https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2021/7329/
Na+/Ca2+ exchanger mediates cold Ca2+ signaling conserved for temperature-compensated circadian rhythms https://advances.sciencemag.org/content/7/18/eabe8132

体内時計がズレない謎

体内時計はすべての生物の中にある1日のリズム(概日リズム)を刻むメカニズムです。

時差ボケとか、不眠症などの問題は、この体内時計が狂ってしまうところから来ています。

体内時計は私たちの体調や脳機能、精神的な安定にも関連していることがわかっていて、うつ病も概日リズムが狂ってしまうところに原因の一端があります。

そして、この体内時計はヒトからバクテリアまで、あらゆる生物が持っています

現在、1日のリズムを作る発生機関は、時計遺伝子による転写ループというものが重要であることがわかっています。

最初の時計遺伝子は2017年に米国の3人の研究者によってショウジョウバエから発見されました。

その後、時計遺伝子は哺乳類植物などさまざまな生物から見つかりましたが、それぞれが異なっていたため、生物種ごとに独立進化してできたものだと考えられていました

ただ、こうした時計遺伝子の転写ループが体内時計の本体と考えると、不自然な部分がありました

それが体内時計の温度補償性という問題です。

温度補償性とは体内時計が環境温度によらず一定の周期を保つ性質のことです。

しかし、時計遺伝子の転写ループは温度が10℃下がると反応速度が半分近く下がってしまいます。

つまり、時計遺伝子だけで体内時計が構成されていると、温度変化で1日のリズムが48時間、72時間とどんどんズレていってしまうのです。

けれど実際そうはならず、体内時計には温度補償性があります。

そのため、何か見落としている仕組みがあるはずだと、70年近く前から言われてきたのですが、それが何なのかはずっと謎のままでした。

しかし、東京大学などの研究チームは、今回初めて、その仕組みと考えられるすべての生物に共通する体内時計最古の部品を発見したのです。

次ページ全生物最終共通祖先(LUCA)がもっていた体内時計の部品

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