呼吸泡でスキューバダイビングをしている
半水棲アノールが初確認されたのは2009年のこと。中米のハイチにて、本研究チームのルーク・マーラー氏と共著者のリチャード・グロー(カンザス大学)により発見されました。
それから2019年に、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校の生物学者、リンジー・スウィアーク氏が、中米コスタリカでアノールの水中呼吸を記録しています。
その際の報告がこちら。
一方で、こうした初期の観察は、水中呼吸のメカニズムについて、詳しく研究されていません。
そこで本研究チームは2017年から、コスタリカ、コロンビア、メキシコで半水棲アノールの詳細な調査を開始しました。
合計で6種の半水棲アノールが確認され、DNA解析の結果、それぞれが遺伝子的に遠縁であることが判明。それにもかかわらず、すべての種が水中呼吸を発達させていました。
水中呼吸は、肺から出した空気を鼻先で風船のように膨らませ、その中の空気を再び吸い込むという仕組みです。
スキューバダイビングによく似ていることから、研究者はこれを「再呼吸(rebreathing)」と呼んでいます。
鼻先に「泡」を作れる理由は、撥水性の皮膚にあります。
水をはじく性質は、もともと雨や寄生虫から身を守るために発達したとされますが、そのおかげで皮膚と水の間に空気を保持できるようになりました。
ミズグモなども、撥水効果のあるお尻の微毛を使って呼吸泡を作っています。
また、泡内の酸素濃度を測定したところ、時間の経過とともに酸素が減っていることが判明しました。
これは気泡の中の酸素を再呼吸している何よりの証拠です。
さらに、泡は吐き出した空気から二酸化炭素を除去できる可能性も示唆されました。
二酸化炭素は水に溶けやすく、気泡内の二酸化炭素濃度が周囲の水よりも高いため、再呼吸されることなく、気泡内から水中へと排出されます。
これはすでに水棲昆虫で確認されており、半水棲アノールも利用しているかもしれません。
まだ検証されていませんが、他にも「気泡が酸素を取り込むエラの役割を果たしている」とか、「頭や喉にも複数の小さな泡を作ることで、新鮮な空気の交換が行われている」といった仮説が指摘されています。
いずれにせよ、こうした再呼吸の仕組みが、20分近くの潜水を可能にしていることに違いはありません。
半水棲への進化には主に、陸上の天敵から身を隠す目的がありますが、胃の中に水棲昆虫が見つかったことから、食料確保のためとも考えられています。
研究主任のクリス・ボッチア氏は「水中呼吸を発達させた目的も含めて、さらなる調査を進めていきたい」と話しています。