発電しながら歩行もサポートする外骨格
スマホなどの便利な小型機器が登場したことで、私たちの日常生活は、常に機械にサポートされる状況になってきました。
これから先の未来では、さらにこうした小型機器は発展し、日常的に身に着けながら私たちの生活をサポートしたり、健康状態を監視するなど、さまざまなデバイスが登場すると考えられます。
そうなったとき面倒なのがバッテリー切れという問題です。
日常的に身に着けて使うような小型機器は、できれば私たちが意識せずに勝手に充電できるようになることが理想です。
そのための方法はいろいろと研究されていて、特に注目を集めているのは私たちの日常動作から電力を獲得するというものです。
歩行は、私たちにとってもっとも当たり前の日常動作です。ここから電力を得るデバイスも開発されていますが、ここで問題となるのは歩行動作に余計な負荷がかかるようになるということです。
歩行動作からエネルギーを取り出すということは、走行中の車にブレーキをかけるようなものです。
これは長距離を歩く人などには特に大きな問題となります。
そこで、クイーンズ大学工学部の研究チームが開発しているのが、発電した電力の一部を利用して、歩行動作の一部をサポートするという外骨格です。
このデバイスは、重さがわずか0.5kgでリュックサックなどに簡単に収まるサイズの外骨格です。
ここからは2本のワイヤーが伸びていて、足首に巻きつけられています。
歩行時に脚が前方に振られると、このワイヤーが引っ張られて発電機を回転させて発電を行います。
このとき歩行にはわずかな負荷が発生します。
ここまでは通常の方向を利用した発電機と同様です。
しかし、この外骨格は発電された電力の一部を使って、歩行終了時の制動に使われる膝の筋力を不要にするようサポートするのです。
残った電力はスマホなどの充電に利用できます。
しかし、歩行の動作で発電して、スマホの充電までしているのに、歩行動作をサポートして負荷を軽減するなんてことが可能なのでしょうか?
私たちはほぼ無意識に実行している歩行という動作ですが、実際その内容は非常に繊細で高度に最適化されています。
歩行効率を外骨格を利用して向上させることは非常に困難な試みです。
けれど、今回の研究チームは歩行のバイオメカニクス、生理学、人間と機械の相互作用などを研究し、世界最高レベルの歩行分析技術を持っています。
彼らが着目したのは、歩行周期のどの段階をサポートするかということでした。
人の行う歩行には、一定の周期が存在しています。
この歩行の段階を、分類したうち、歩行動作の終端にあたるターミナルスイング(terminal swing)という段階の膝の筋肉に使われるエネルギーを、今回のデバイスは肩代わりするのです。
チームの報告によると、この方法によって利用者の歩行に必要なエネルギーは約3.3%軽減させることができ、さらに約0.25ワットの発電を行うことに成功したといいます。
まだプロトタイプなので、多少不格好にも見えますが、利用者はあるき始めてから2~3分でかなり自然に歩けるようになったとのこと。
現在の実験では、平地での歩行を対象としていますが、チームは今後、坂道の上り下りなど、さまざまな局面でも歩行効率が上がることを実証していく予定です。
これは山歩きなど、遠隔地を徒歩で移動する人たちに、特に役立つ可能性が高いと考えられます。
また、郵便配達員や看護師など、一日中歩き回る仕事に従事する人の負担を軽減したり、マラソンなどの走行競技でも負担を軽減させることでタイムを縮めることもできるだろうと研究者は話します。
発電しながら負荷を減らすとは、まるで無限機関のようなすごい発明ですね。