生まれた子の「ばらつき」をあえて無くしていた!
本研究は、イギリスのエクセター大学 (University of Exeter)、ローハンプトン大学(University of Roehampton)の主導で行われました。
研究員によると、シママングースには、妊娠したメス全員が同じ日の夜に出産することで、自分の子を分からなくする習性があるという。
どれがお腹を痛めて産んだ子が見分けられないので、全員を平等に世話するようになるのです。
言い換えれば、シママングースの群れは「無知のヴェール(veil of ignorance)」を利用していると指摘できます。
「無知のヴェール」とは、アメリカの哲学者ジョン・ロールズ(1921–2002)が唱えたもので、自分自身の社会的位置や立場について全く知らずにいる状態を指します。
そうなることで、自分の利益を優先して行動することが防がれ、社会全体の利益につながるというのです。
そこで研究チームは「生まれた子の個体差を大きくし、否が応でも見分けられるようにしたらどうなるだろう」と考えました。
チームは、ウガンダ(東アフリカ)に生息する7つのシママングースの群れを対象に実験を開始。
各グループに属する妊娠中のメスの半数に、追加のエサとして毎日50gの卵を与え、残りの半数には何も与えずに出産日を待ちます。
すると、出生時の子どもの体重に不平等が生じ、追加のエサをもらったメスはより大きな子を産んでいました。
ところが、出産後の母親たちは、自他の子どもに関係なく、小さな子に積極的にエサを与えて、子どもたちの個体差をなくすよう行動したのです。
シママングースたちは、自分たちの意思で「無知のヴェール」状態を作っていました。
エクセター大学のマイケル・カント氏は「そうすることで、子孫が不利益を被るリスクが最小限に抑えられていました。
このような再分配型のケアにより、初期の体格差が平準化され、子どもが大人になるまで生き残る確率も均等化されたのです」と説明します。
また、ローハンプトン大学のハリー・マーシャル氏は次のように述べています。
「ほとんどの動物では、親は自分の子どもを優遇します。
しかしシママングースでは、メスの出産同期の進化により、我が子が見分けられず、優遇して世話できないという珍しい状況が起こりました。
私たちの研究は、”無知のヴェール”が実際に資源の平等な分配、つまり公平な社会につながることを示しています。」
シママングースたちは、この仕組みを本能的に理解して、実践しているのかもしれません。