実験の失敗から生まれた新素材
今回の素材は、ルオ氏が2020年に、pHによって色が変わる化学センサーフィルムとして開発したものでした。
つまり、もともともは分解しやすいプラスチックを作っていたわけではなかったのです。
しかし、このフィルムはpHレベルで深紅色に変化したものの、すぐにその色は消えてしまい失敗作でした。
そのため、太陽光の下で放置されてしまいました。
ところが数日後、ルオ氏はこのプラスチックフィルムがバラバラに分解されているのに気づいたのです。
この材料は、共益系ポリマーと呼ばれるもので、二重結合と一重結合が交互に並ぶ長い骨格を持っています。
材料を染めていた色は、染料によるものではなく、この長いモノマーの鎖からなる分子構造に由来していました。
色がすぐに失われてしまったということは、この鎖がモノマー単位に分解されたことを意味しています。
こうしたポリマー鎖を切断することは、プラスチック分解において特に難しいステップとされています。
しかし、この素材は太陽光によってその難しいポリマー鎖を断ち切れるとわかったのです。
今回の研究には参加していませんが、カリフォルニア大学アーバイン校の材料化学者ジビン・グアン(Zhibin Guan)氏は、この分解メカニズムがかなり特殊なものだと話します。
「この分解メカニズムは、他の分解可能なプラスチックの分解方法(例えば、エステル結合やアミド結合の加水分解)とはまったく異なります。
このメカニズムの一般性を証明するには、さらに研究が必要でしょう」
この分解性プラスチックのメカニズムについては、まだまだ研究する必要があり、研究者は実用化させるには、まだ5~10年はかかるかもしれないと話しています。
しかしこの材料は、同業の研究者たちから高く評価を受けているようです。
コロラド大学の化学研究者ユージーン・チェン氏は、「プラスチック設計におけるいくつかの重要な課題を解決しており、ほぼ理想的なプラスチックの分解を実現した力作だ」と話します。
化学の分野では、本来の目的と異なる失敗した材料が、非常に有用な材料として評価されることがあります。
もはや文具の定番「ポストイット」も、もともとは強力な接着剤を作ろうとしたものが、失敗して超弱い接着剤ができてしまったことがきっかけで誕生した商品です。
今回の発見も、失敗が生んだ傑作材料になるのかもしれません。