1日のシアノバクテリアの活動
地球の日の延長と、シアノバクテリアの活動の関係を明らかにするため、研究チームは北アメリカ五大湖の1つヒューロン湖にある、ミドルアイランド陥没孔を調査しました。
陥没孔(sinkhole)というのは、石灰岩などが崩落してできた地下の空洞のことです。
ここには大酸化イベントの原因となったシアノバクテリアの近類の微生物マットがあります。
微生物マットは水と岩や地面などの間に、層となって形成されている微生物群集のことです。
ヒューロン湖の深さ24mの底にあるミドルアイランド陥没孔の水は、硫黄が非常に豊富で酸素が少なく、数十億年前の地球にあった環境に酷似しています。
そのため、ここでの微生物の活動を調べることで、過去の地球の生態系で起きたことを研究するために利用できるのです。
ここでは2種類の微生物が特に目立っています。
1つは白い硫黄酸化細菌で、もう1つは紫色をした酸素生成細菌のシアノバクテリアです。
この2種の細菌は、それぞれ異なるものからエネルギーを得ています。その名の通り前者は硫黄から、後者は光合成により太陽光からエネルギーを獲得します。
そして、両者は生存域が競合していますが、活動時間を分けることでうまく共存するようになったのです。
夕暮れから夜明けにかけては、硫黄を消費するバクテリアがシアノバクテリアの上に覆いかぶさって活動し、日が出てくると、硫黄を食べるバクテリアは降下して、シアノバクテリアが日光を求めて表面に上がってきます。
シアノバクテリアは太陽光を浴びると酸素を生成しますが、彼らは非常にスロースターターです。
酸素生成量が最大に達するまで数時間以上かかります。
つまり、シアノバクテリアが1日にどれだけ酸素を生成し大気中へ放出できるかは、日照時間に強く影響されることが明らかとなったのです。
そして、この問題と地球の自転速度の低下による1日の時間変化をモデル化したところ、地球の酸素濃度の上昇ときれいに一致する結果が得られたのです。
なんとシアノバクテリアは、1日の長さがある一定以上の長さにならなければ、十分な量の酸素を大気中に拡散させることがなかったのです。
つまり、月との潮汐摩擦で地球の自転が低下しなかったら、地球にはいつまで経っても最初の10億年の低酸素の状態が続いていた可能性があるのです。
それは地球に我々人間を含めた生命が誕生しなかった可能性を意味しています。
この研究は、1つの推測に過ぎませんが、それでも生命の溢れる地球が誕生するためには、非常に複雑な要因が絡んでいたことがよくわかります。