人の命を脅かすほどの「暑さ」とは?
地球温暖化の影響で、異常気象が増加していることは広く知られています。
しかし、単なる「猛暑」ではなく、「人間にとって危険なレベルの暑さ」が問題になっていることをご存じでしょうか。
暑さが命を脅かすのは、体温を調整できなくなることが原因です。

私たち人間は、汗をかくことで体内の熱を外に逃がし、体温を調整しています。
しかし、空気中の湿度が高すぎると汗が蒸発しにくくなり、熱が体内にこもってしまいます。すると、たとえ安静にしていても体温はどんどん上がり、生命の危機に陥ることがあります。
このような「体温調節が効かなくなる限界」を判断する指標として使われるのが、湿球温度(wet-bulb temperature)です。
湿球温度とは、温度計の先端を湿らせたガーゼで包み、風を当てることで水の蒸発冷却を再現し、気温と湿度を統合して表す温度です。
従来の研究では、湿球温度35℃が人間が耐えられる生理的な上限と考えられてきました。
これはたとえば、
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湿度が100%なら気温は35℃まで
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湿度が50%なら気温はおよそ46℃まで
といった組み合わせになります。これを超える環境では、どれだけ水を飲んでも、扇風機を浴びても、汗が蒸発せず、体温は上がり続けてしまいます。
その結果、数時間以内に命に関わるリスクが生じるとされています。
しかし、2022年にペンシルベニア州立大学(Pennsylvania State University)が発表した研究では、実際にはこの限界はもっと低い可能性があると報告されました。
実験の結果、健康な若年成人であっても、湿球温度が30〜31℃を超えると体温の上昇が始まり、長時間の滞在は危険であることが示されました。
高齢者や持病のある人では、この限界はさらに低くなると考えられています。
そして今回、イギリスのキングス・カレッジ・ロンドン(King’s College London)の研究チームは、そのような「危険な暑さ」の範囲が拡大すると報告しました。