ニューロンのような記憶装置
私たちの使うコンピュータは、ハードディスク(HDD)とメモリというものを組み合わせて情報の記録を行っています。
HDDは電源を切ったあとも記憶が保持されますが、記録するための動作が遅いなどの問題は、おそらく多くの人たちが認識しているでしょう。
そのため、使用中のコンピュータの細かなデータ管理はメモリ(DRAM)で行っています。
しかし、このDRAMは応答はいいですが、電源を落とすと保持していた記憶が全て失われてしまいます。
そのため、DRAMは揮発性メモリと呼ばれたりします。
いずれにせよ、コンピュータの記憶や動作には非常に多くの電力を消費します。
一方、私たちの脳もコンピュータ同様に情報の記憶や、複雑なタスクの処理を実行することができます。
しかし、私たちは別にどこかに電源がつながっているわけではありません。
人間の脳が1日で消費するエネルギー量は、わずかバナナ2本分相当だともいわれています。
なぜ、人間の脳はそれほど高効率で動作し、情報が揮発することもないのでしょうか?
(忘れっぽいという人の特性については、また別の科学的な研究が必要でしょうが、私たち人間が大した電力消費もなしに驚くほど多くの情報を保持し続けることができるのは事実です)
この人間の脳機能に大きく貢献しているのが、ニューロン(神経細胞)です。
ニューロンは受け取った刺激に応じて開閉するイオンチャネルという小さな孔の開いた膜を持っています。
ニューロンでは、この細孔の開閉に応じて発生するイオンの流れが電流となって活動電位を作り出しています。
イオンチャネルは幅100ナノメートル未満しかなく、ここでどのように流体が動作しているかということは、完全に解明できてはいません。
しかし、ここの動作を利用し、電子ではなくイオンを利用して情報の伝達ができるようになれば、人間の脳のようなほとんどエネルギーを消費しない高効率なデバイスを作ることが可能になります。
それは電力が失われても情報を保持できる不揮発性メモリ(メモリスタ)と呼ばれるデバイスの開発にも役立つと考えられるのです。
そして今回の研究は、それを実現する方法を考えたというものなのです。