電子の代わりにイオンを使う、脳と同じ記憶装置を開発した
電子の代わりにイオンを使う、脳と同じ記憶装置を開発した / Credit:depositphotos
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ヒトの脳に近い記憶媒体「人工ニューロン」が考案される

2021.08.16 Monday

私たちの脳とコンピュータは、どちらも複雑な情報処理を行いますが、その動作方法はまるで異なっています。

特にエネルギー消費の観点から見れば、格段に人間の脳のほうが高効率で、DRAMのような記憶装置は電源が切れれば保持した情報を失ってしまいます。

フランス国立科学研究センター(CNRS)などの研究チームは、2つのグラファイトの間に水分子の電解質層を入れた場合、イオンを利用して人間のニューロンに近い働きが実現できるという理論を発表。

この理論は実現されれば、電源がなくても記憶を保持し続けることのできる不揮発性メモリ(メモリスタ)の開発に役立つ可能性があります。

研究の詳細は8月6日付で科学雑誌『Science』に掲載されています。

Scientists Created an Artificial Neuron That Actually Retains Electronic Memories https://interestingengineering.com/artificial-neuron-retains-electronic-memories An artificial ionic neuron for tomorrow’s electronic memories https://www.eurekalert.org/news-releases/923900
Modeling of emergent memory and voltage spiking in ionic transport through angstrom-scale slits https://science.sciencemag.org/content/373/6555/687.abstract

ニューロンのような記憶装置

メモリとハードディスク。どちらも電力の消費は大きい。
メモリとハードディスク。どちらも電力の消費は大きい。 / Credit:canva

私たちの使うコンピュータは、ハードディスク(HDD)とメモリというものを組み合わせて情報の記録を行っています。

HDDは電源を切ったあとも記憶が保持されますが、記録するための動作が遅いなどの問題は、おそらく多くの人たちが認識しているでしょう。

そのため、使用中のコンピュータの細かなデータ管理はメモリ(DRAM)で行っています。

しかし、このDRAMは応答はいいですが、電源を落とすと保持していた記憶が全て失われてしまいます。

そのため、DRAMは揮発性メモリと呼ばれたりします。

いずれにせよ、コンピュータの記憶や動作には非常に多くの電力を消費します

一方、私たちのもコンピュータ同様に情報の記憶や、複雑なタスクの処理を実行することができます。

しかし、私たちは別にどこかに電源がつながっているわけではありません。

人間の脳が1日で消費するエネルギー量は、わずかバナナ2本分相当だともいわれています。

なぜ、人間の脳はそれほど高効率で動作し、情報が揮発することもないのでしょうか?

(忘れっぽいという人の特性については、また別の科学的な研究が必要でしょうが、私たち人間が大した電力消費もなしに驚くほど多くの情報を保持し続けることができるのは事実です)

この人間の脳機能に大きく貢献しているのが、ニューロン(神経細胞)です

人間の高効率な脳活動を支えるベースユニットがニューロン
人間の高効率な脳活動を支えるベースユニットがニューロン / Credit:canva

ニューロンは受け取った刺激に応じて開閉するイオンチャネルという小さな孔の開いた膜を持っています。

ニューロンでは、この細孔の開閉に応じて発生するイオンの流れが電流となって活動電位を作り出しています。

イオンチャネルは幅100ナノメートル未満しかなく、ここでどのように流体が動作しているかということは、完全に解明できてはいません。

しかし、ここの動作を利用し、電子ではなくイオンを利用して情報の伝達ができるようになれば、人間の脳のようなほとんどエネルギーを消費しない高効率なデバイスを作ることが可能になります。

それは電力が失われても情報を保持できる不揮発性メモリ(メモリスタ)と呼ばれるデバイスの開発にも役立つと考えられるのです。

そして今回の研究は、それを実現する方法を考えたというものなのです。

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