明らかになるレム睡眠の健康効果
観測の結果、マウスの大脳皮質のさまざまな領野で、毛細血管へと流入する赤血球数が大幅に上昇していることがわかりました。
脳毛細血管の赤血球数は、覚醒して活発に運動している時と、深いノンレム睡眠中で特に違いがなかったにもかかわらず、レム睡眠中は2倍近くも増加していたのです。
これは、レム睡眠は脳の血流が活発になっていることを意味していて、それは大脳皮質の神経細胞の物質交換が活発に行われていることを意味しています。
先に述べたように、脳の機能維持において、毛細血管を介した酸素や栄養の供給と、二酸化炭素や老廃物の回収という物質交換は非常に重要な役割を担っています。
今回の結果は、レム睡眠の時間が少ないと、脳では活発な物質交換が行われなくなることを示唆しています。
レム睡眠やノンレム睡眠の時間は、よく90分周期といわれていますが、実際これにはかなり個人差があります。
そのためレム睡眠が短い人は脳の機能低下や老化の進行が早くなり、認知症リスクも高くなると考えられるのです。
また、今回の研究では、レム睡眠中の毛細血管の血流上昇には、カフェインの標的物質として知られるアデノシン受容体が重要であることも明らかになりました。
アデノシン受容体の一部の遺伝子が欠損したマウスは、レム睡眠中の血流がほとんど上昇しなかったのです。
まだカフェインによって睡眠中の脳に、どのような影響があるか明確ではありません。
しかしカフェインはアデノシン受容体の働きを阻害する物質であるため、脳機能の維持になんらかの問題を及ぼす可能性もあります。
研究者は今後のその詳細も明らかにしたいと述べています。
今回の研究から、レム睡眠が脳の機能低下や認知症の予防に重要であることが示されました。
これはレム睡眠の割合を効果的に増やす行動療法や、睡眠薬が、脳機能を高め、新しい認知症治療の開発にも役立つ可能性を示唆しています。
睡眠とは、ただ眠るだけでは不十分だったようです。
認知症発症リスクや死亡リスクの低下につながっているなら、人間は安眠するために全力を尽くさないといけないかもしれません。