星の逆光を利用した観測
天体が別の天体の前を通過して隠すことを「掩蔽(えんぺい)現象」、または「星食」と呼びます。
この現象を利用すると、冥王星が背後の恒星を隠したとき一時的に発生する逆光から、冥王星の大気状態を調べることができます。
1988年以降、天文学者たちは、この観測方法によって定期的に冥王星の大気変化を観測していて、2015年にはNASAの探査機「ニューホライズン」によって詳細な大気密度が測定されました。
これらの観測からは、冥王星の大気がおよそ10年ごとに倍増しているという傾向が確認されていました。
しかし、2018年に行われた掩蔽(えんぺい)現象を利用した冥王星の観測からは、この大気の増加傾向がなくなっているとわかったのです。
掩蔽現象は約2分間続きます。
この間、背後の恒星の光は大気中を通って減衰し、また徐々に明るさを戻していくため、U字型の光度曲線が確認されます。
しかし、ときおりこのU字型の光度曲線の中央に、「セントラルフラッシュ(central flash)」という光度が急に上がるスパイクが確認されることがあります。
これは、恒星が冥王星の完全に背後に隠れた状態の時、冥王星を包む大気によって恒星の光が屈折し、まるでレンズの様に機能して、一時的に地球へ向かう光を集中させることで発生する現象です。
大気により屈折した光なので、このセントラルフラッシュの強度からは冥王星の大気密度が分析できるのです。
2018年の観測で確認されたセントラルフラッシュは、これまで誰も見たことがないほど強いものでした。
そしてそれは冥王星の大気密度が、これまでの観測より低下していることを示す証拠だったのです。
しかし、これまで増加傾向が確認された冥王星の大気が、なぜ2018年の観測では低下していたのでしょうか?
それは冥王星の軌道に秘密があります。