冥王星の大気が薄くなっている原因
太陽から非常に遠い冥王星の公転軌道は、とても長く、太陽を一周するのに地球時間で248年かかります。
つまり観測開始以降、まだ誰も冥王星が太陽を一周したところを見ていないのです。
また、その軌道は楕円形で太陽との距離も大きく変化します。
冥王星軌道では、もっとも太陽に近いときの距離は30天文単位(地球-太陽間距離の30倍)で、もっとも太陽から遠ざかるときの距離は50天文単位になります。
冥王星の大気は、地球同様ほとんどが窒素で構成されていますが、大気を支えているのは表面の氷の蒸気圧です。
冥王星の温度が高くなると、表面で凍りついている窒素が昇華して冥王星の大気密度を上昇させますが、逆に表面温度が下がると窒素が再凍結して大気密度は下がると予想されるのです。
ただ、ここ四半世紀(25年)の間、冥王星はずっと太陽から遠ざかるコースにありました。
にも関わらず2015年までの観測では、冥王星の大気密度は上昇傾向にあったのです。
これが、単純な予想を覆している問題でした。
しかし、今回、冥王星の大気密度が低下していることが確認されたことから、SwRIのレスリー・ヤング博士はその理由を次のように説明しています。
「これはいわゆる熱慣性と呼ばれる現象によるものだと考えられます。
この現象を例えるなら、太陽がビーチの砂を温めるときを考えるといいでしょう。
太陽の光は正午にもっとも強くなり、その後は徐々に弱まっていきますが、ビーチの砂は午後の間も熱を吸収し続けるため、午後の遅い時間にもっとも熱くなります。
冥王星の大気密度が太陽から離れていても上昇を続けていた理由は、これと同様に冥王星の表面にある窒素の氷は、地表の熱によって温められていたと考えられるのです。
今回のデータは、その熱慣性が終わり、ついに冥王星が冷え始めたことを示しているのです」
公転周期が248年もある冥王星は、まだ誰も太陽の周りを一周したところを観測していません。
そのため、公転軌道の位置によってどんな変化が起きるのかは、現在進行系で明らかにされている天文学の研究なのです。
冥王星は2006年にはじめて惑星の定義が決定されたことで、惑星の仲間から除外されてしまいました。
この定義では、軌道上でもっとも大きな質量を持つことで、他の天体を排除していることが含まれています。
冥王星はこの定義から外れたため、準惑星になってしまいましたが、未だにそのことに反発する天文学者やNASAの関係者もいます。
惑星ではなくなっても、冥王星がいつまでも魅力的な天体であることは確かなようです。