原子の構造を示したアートワーク。中性子は原子核の中では安定するが自由中性子は15分程度の寿命しか持たない。
原子の構造を示したアートワーク。中性子は原子核の中では安定するが自由中性子は15分程度の寿命しか持たない。 / Credit:canva
physics

謎多き「中性子の寿命」がこれまででもっとも正確に測定される

2021.10.14 Thursday

原子核の構成材料でもある中性子は、物理学において基本的な粒子の1つといえるでしょう。

しかし、その崩壊までの寿命はだいたい15分程度とわかっていますが、実験によって結果が異なり正確な時間はわかっていません。

今回、米インディアナ大学ブルーミントン校(Indiana University Bloomington)などの研究チームは、ロスアラモス国立科学センターで、これまででもっとも正確な中性子の寿命測定を成功させたと報告しています。

中性子の正確な寿命がわかれば、ビッグバン後の最初の宇宙にどれだけの元素が誕生したかを決定でき、宇宙の進化やまた素粒子標準モデルの問題点なども明らかにできるため、非常に重要な情報となります。

今回の研究成果は、10月13日付で科学雑誌『PHYSICAL REVIEW LETTERS』に掲載された論文に報告されています。

 

Physicists Capture The Most Precise Measurement Yet of a Neutron’s Lifespan https://www.sciencealert.com/this-is-the-most-precise-measurement-yet-of-a-neutron-s-lifespan 素粒子宇宙起源研究所「第9回:中性子寿命の精密測定(2014年12月)」 https://www.kmi.nagoya-u.ac.jp/blog/2014/12/01/spotlight09/
Improved Neutron Lifetime Measurement with UCN τ https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.127.162501

中性子の寿命とは?

寿命という言い方をされると、「中性子って死ぬの?」と思う人もいるかもしれませんが、素粒子の寿命とは私たちが普段考える生まれてから死ぬまでの時間というものとは少し異なります。

素粒子はいつ誕生したかという問題とは関係なく、一定時間が過ぎると決まった割合で崩壊していきます。

ある粒子の数が1/e(eは自然対数の底、値は約2.72)に減るまでの時間を、素粒子の寿命と呼ぶのです。

そのため、ある粒子が100個あって、これが1時間後に37個に減ったとすると、この粒子の寿命は1時間ということになります。

どの粒子がいつから存在していて、どのくらいの期間存在できたかという問題は、特に関係ありません。

素粒子の寿命の考え方
素粒子の寿命の考え方 / Credit:canva,ナゾロジー編集部

素粒子は確率的にしかその振る舞いを論じることができないため、どの素粒子がいつ崩壊するかという話をすることができません。

そのため集団の中でどれだけの数がどのくらいの時間で崩壊するか、という方法でしか論じることができないわけです。

アインシュタインは、量子力学のそういうところが嫌いだったようですが、それはまた別のお話です。

では、中性子が寿命でなくなるというのは、どういうことなのでしょうか?

私たちがよく知るように、中性子は陽子とともに原子核を構成する粒子の1つです。

原子核に束縛されている中性子は基本的に安定していますが、単体で存在する自由中性子は、およそ15分ほどで電子やニュートリノなどを放出して崩壊し、陽子になってしまいます。

これをβ(ベータ)崩壊と呼びます。

β崩壊の概念図
β崩壊の概念図 / Credit:天文学辞典,(作成 森正樹)

中性子の寿命の謎とかいっておいて、15分ってわかってるじゃん、と思う人もいるかもしれませんが、実はここが少し曲者でだいたいはわかっていても正確にはわからなかったのです。

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